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弥益ドミネーター聡志「もういいじゃないですか、試合前の話は」RIZINで平本蓮に敗れた“サラリーマン格闘家”は、なぜ感動を呼んだのか?
posted2022/11/12 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
日本最大の格闘技イベントで、サラリーマンがメインイベンターを務めた。それも2試合連続だ。
11月6日、愛知・ドルフィンズアリーナでの『RIZIN LANDMARK 4』、そのメインで平本蓮と対戦したのは弥益ドミネーター聡志。3月の『RIZIN.34』でもメインに出場し、一本勝ちを収めている。
筑波大学卒、同大の大学院を修了し、現在は食品会社に勤務している弥益。学生時代に格闘技を始め、DEEPでフェザー級チャンピオンになった。
前戦、3月の大阪大会のメインで勝った相手は連勝中だった萩原京平。今回は、MMAデビュー戦で萩原に負けている平本蓮との対戦だ。日本MMAの最前線と言えるDEEPでベルトを巻いた弥益に対し、平本はK-1からMMAに転向して1勝2敗。K-1での実績はあるものの、MMAでの“格”は弥益のほうが上だ。平本には「自分が負けた萩原をタップさせた男に挑む」というテーマがあり、弥益にはメリットがなくリスクばかり。そういうマッチメイクだった。
展開は平本のワンサイドに…
しかも平本はMMAファイターとして日進月歩で成長している。侮っていい相手ではない。弥益もそのポテンシャルを認めていた。
「弥益、楽勝だろと思っている人には驚くような展開になるかもしれないです。自分自身は苦戦するつもりですべてを考えてます」
その予想は当たってしまうことになる。いや予想以上か。結果は判定3-0で平本の勝利。展開はワンサイドと言ってよかった。打撃のスペシャリストである平本が取ったのはカウンター戦術だ。
腰を落とし、どっしりと構える。そうして自分の制空圏に相手が入ってきたところでパンチを繰り出すのだ。相手の攻撃を待ち構えている形だから、タックルもディフェンスしやすい。隙のないファイトスタイルだ。
そうなると弥益が動くしかない。打撃で距離を詰め、カウンターを浴びながらもタックル。潰されても足関節を取りにいった。平本に“動かされた”とも言えるのだが、とにかく弥益が先に動いて、展開を生み出したのは間違いない。試合後の弥益は言った。
「想定通りの部分が多かったんですけど、それを上回れなかったです」
自己評価は「情けない」だが…
想定通りというのは「大したことはなかった」という意味ではないだろう。戦前の言葉からしても「想定通りに強かった」と捉えたほうがいい。ファイトスタイルや展開についても予測していた。ただそのスタイル、展開で闘う平本の強さが、弥益でさえ及ばぬものになっていた。