小田部　荒尾競馬場も2011年に廃止されて、地方競馬は九州には佐賀競馬場しか残っていなくて、九州で生き残った佐賀競馬には潰れてほしくないんです。中津の廃止は私にとってだいぶ痛かったです。中津がなくなったから騎手人生が短くなった部分もあると思いますし、調教師や厩務員をしていたご年配の方が孤独死された話も聞きました。みなさん、馬が生き甲斐な面もあったと思うんです。

――現存する地方競馬はネット投票などで巻き返していますが、コロナ禍で競馬場に足を運ぶ人が減ったことで、競馬専門紙の売り上げは打撃を受け、競馬新聞「競馬日本一」が廃刊するなど一部ではまだ苦況が続いていますよね。

小田部　もちろん主婦の私が競馬界に戻ってきても「今さら何なの」とインターネットで言われないかな、と不安もありました。けど、あんな思いは二度としたくない、してもらいたくない、その気持ちのほうが勝りました。「馬物語」を買っていただいて、1人でも多くの人に佐賀競馬場に来てもらって、生で馬を見てもらうことで100円でも多く馬券の売り上げに繋がればいいかな、と思いました。地方競馬の廃止が相次いでいた頃と環境は変わって、馬券だけでなく専門紙も全国どこでも買うことができます。私は機械音痴なんですけど、中津の実家に帰った時、コンビニのコピー機で意外と簡単に買えました。

佐賀競馬場のゴール前。馬券のネット発売がされてから追い風も、競馬場まで足を運ぶファンは多くないのが現状だ　©Takuya Sugiyama

――予想はどういう風に組み立てているんですか？

小田部　出走全馬の過去のレースをまずは映像で確認します。「スタートがいい」とか「4コーナーでちょっと止まる」といった馬の癖もですし、どこでどう追っているかといった騎手の癖もチェックしていきます。子供たちには「レースを何回も見て意味あるの？」と言われるんですけど、全体ではなくて1頭ずつ見ているので時間がかかります。

――予想には何日くらい費やすんですか？

小田部　実は、正社員として事務の仕事をしているので、帰宅して子供たちにご飯を食べさせた後、夜な夜なやっています。疲れて途中で寝ちゃうこともありますけど、会社は「いまの時代、副業をするのは当たり前だから」と理解をしてくださっています。出走予定馬の情報を月曜日にもらって、少しずつ準備をして木曜日の朝までに印を打ち終えて、土日のレースを迎える、というのが基本的な流れです。

紙面では小田部Aと小田部Bが登場

馬物語の紙面。小田部Aと小田部Bの2人分の印が打たれているが、これは一体…？　©Sports Graphic Number

――紙面を見ると「小田部A」と「小田部B」という印が2種類存在します。どう使い分けているんですか？

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