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YouTubeでバズった「忍者女子高生」泉ひかり26歳は今、なぜパルクールに励むのか「危険と思われる時期もあったけど」
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byRyota Hasebe
posted2022/10/23 17:02
YouTube動画で“バズった”経験を持つ泉ひかりは今、パルクールのアスリートとして活動している
「もちろん1位になれたらうれしいけど、より良い自分を目指すためにやっているので、パルクールのそういう面を知ってもらえればうれしいです」
「ひかりなら絶対にできる。なんでやらないの?」
決勝で見せた泉の走りにはもう一つ、パルクールを象徴する要素が含まれていた。他人の成長を後押しし、喜びを分かち合う点だ。予選の後、泉は他の選手からより速く走るルートを勧められた。
後半に設置された、鉄棒から前方の台に登るポイント。泉は予選で鉄棒の下をくぐった後で台に飛びついていたが、これだと時間がかかってしまう。決勝では鉄棒の上から一気に台へジャンプし、タイムをぐっと縮めた。
「『ひかりなら絶対にできる。なんでやらないの?』と言われて。挑戦しなきゃと、勇気づけられました」
主に脚力のある男子選手がやる動きだったが、背中を押されたことで、恐怖心を乗り越えてチャレンジできた。
大会中に時間が空くと、他国の選手とともに都内のパルクールジムに行った。電車とバスを乗り継ぎ、有明から1時間以上もかけて。「みんな『行きたい!』って言うので。最初は5人くらいだと思ったけど、バスに乗ったら20人くらいいて(笑)。楽しかったです」
パルクールの選手にとって、ライバルは大切な仲間でもある。
泉の活動は競技者だけにとどまらない。ワークショップやイベント、トークショーなど活躍の場は多岐にわたり、情報サイトの運営やアパレルブランドも手がける。「パルクールなんでも屋」といったところだ。シャツには今年から所属する「TOKIOインカラミ」の他、公式アンバサダーを務める「Xperia」や「JAL」のロゴがついている。隆盛なアーバンスポーツをけん引する魅力的な選手として、多くの企業が注目している。
パルクールのいいところは…
パルクールは2028年ロサンゼルス五輪での採用が期待される。昨年の東京五輪で初めて行われたスケートボードやスポーツクライミングと同様、五輪で実施されれば一気に認知度は高まり、競技人口も増えそうだ。
「もともとはトレーニングのための文化で、多くの人に知ってもらうためにアクロバティックな動きが増えて危険だと思われる時期もあったけど、今は大会で誰かと競うものと思われるようにもなりました。とらえ方が変わることで複雑な気持ちもあるけど、パルクールのいいところはいろんな面を持っていること。パフォーマンスとして、競技として、トレーニングとして……。競技として発展していくのをきっかけに、皆さんにもっと知ってもらえればいいなと思います」
競技としての歴史は始まったばかり。元「忍者女子高生」はパルクールの文化を大切にしながら、今後も伝道者の役割を果たしていくつもりだ。
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