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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
箱根駅伝予選会“史上最大の事件”…6年前、どん底の日から名門・中央大はいかに復活したか? 当時の証言「だって高校生に負けたんですよ」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2022/10/14 17:19
10月9日、9年ぶり出場の出雲駅伝で3位に入った中大。6区を走ったのは吉居大和(3年)の弟・吉居駿恭(1年)
潮目が変わったのは、2020年だった。
仙台育英から吉居大和が入学してきたのだ。
吉居は世代でもトップ級のランナーで、各大学ともに喉から手が出るほど欲しい人材だった。吉居に「どうして中大に決めたんですか?」と聞いたことがある。
「高校時代に中大の練習に参加させてもらって、とっても雰囲気が良かったんです。ああ、ここなら自分は強くなれそうだと思いましたし、実際、その予感は当たっていました」
吉居は大学1年の春からトラックで結果を残し始めた。藤原監督が「学生時代に東京オリンピック、世界選手権に挑戦できる人材です」と目を輝かせて話していたが、その通りになった。
1年生でいきなり戦力の“吉居弟”
現代のリクルーティングの鍵は、
「強い先輩がいる学校にいけば、きっと自分も強くなれるはずだ」
と有力な高校生が考えることだ。
たとえば、出雲駅伝で好走した駒大の佐藤圭汰が進学先を決めるにあたって、4年生に世界を狙う田澤廉がいたことは「ひとつのファクター」になっていたはずだ。
中大は吉居が入学したことで、有力ランナーが一目置く学校になった。今年、2022年には洛南高校から溜池一太、そして吉居の弟である吉居駿恭が入学し、出雲駅伝でも区間上位で走ったように1年生から早くも戦力となっている。
エリート組+入学後に成長した組
そしてまた見逃せないのは、「育成力」だ。藤原監督はいう。
「ウチの上級生は、7区から10区までであれば、区間上位でまとめてくれる選手たちがそろっています」
学生界ではスーパーな存在というわけではない。しかし、復路の単独走を淡々と区間上位でつなげる人材がそろっているのも中大の特徴だ。前回の箱根駅伝でいえば、8区の中澤雄大、9区の湯浅仁がそれぞれ区間3位でつないでいる。
もともと、藤原体制になってからは中山顕(現・Honda)が準部員として入部した状態から(これはこれで、一本のストーリーになる)、4年生では箱根駅伝の1区で区間2位と好走するまでになった。
現在の中大はその流れを汲み、吉居兄、中野翔太(3年)、溜池、吉居弟らのエリート組と、入学後にしっかりと成長してきた層が合わさって、分厚いレイヤーを構成している。
分厚いレイヤーは作れる。それは創価大の近年の躍進を見ていれば分かる。しかし、エリートが入学してくるのは、やはり「名門」の看板と、吉居が実際に結果を残しているからだ。ここに伝統の力と育成の融合がある。
藤原監督が狙う「再来年の箱根優勝」
そして、2022年。
出雲駅伝で、藤原監督は勝ちに行った。出雲入りの飛行機では、複数の学校が飛行機で相乗りになる。とある大学の関係者がこう証言してくれた。