格闘技PRESSBACK NUMBER
「相手は真剣、自分にとっては遊び」メイウェザーは朝倉未来に対してどこまで“本気”だったのか? 土下座まで飛び出した狂騒曲の顛末
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/10/04 11:01
2ラウンド終了間際、メイウェザーの右を被弾して崩れ落ちる朝倉未来。ボクシングルールにおいて、両者の間には埋めがたい力量差があった
朝倉未来のパンチも当たっていたが…
ボクシングのフックやストレートとMMAのそれは同じようで異なる。ルールが違うのだから当然といえば当然だ。ボクシングの場合、拳による攻撃しか認めていない分、アタックの仕方は限定されるが、角度、タイミング、コンビネーションなどの細かいバリエーションを徹底的に突き詰める。対照的にMMAだとキック、ヒジ、ヒザを使えるだけではなく、タックルや寝技も有効だ。攻撃のバリエーションそのものは豊富だが、ひとつのパーツに費やす時間は必然的に少なくなる。
ボクシングの名トレーナーとして知られるマック・クリハラ氏は、旧K-1の大会で総合格闘家のセコンドとして来日したことがある。その際に名古屋の会場で筆者が「ボクシングと他の競技のパンチの技術の違いとは?」と聞くと、名伯楽はこう答えた。
「ボクシングには他の競技以上にスキルが必要なんだ」
現役時代、卓越したスピードとディフェンスを売りにしていたメイウェザーにとって、ボクサー以外のパンチを避け、ブロッキングすることなど朝飯前だったはず。朝倉戦のフィニッシュのクロスカウンターは今までの貯金がモノをいったのだろう。もちろん、その前にボディを攻撃するなど伏線を張ったうえでの理詰めの一撃だった。
「朝倉のパンチも当たっていたじゃないか」という意見があることは百も承知だ。メイウェザーを相手に引かなかった彼の勇気は賞賛されるべきだろう。しかしながら、当てるのと効かせるのは違う。いみじくも試合後、メイウェザーは次のように語っている。
「いつも言っているけど、これはエキシビションなので、全然心配していませんでした。1発もらったからといって何か気にするわけでもない。とくに自分は今回の対戦相手より大きな相手からも、世界のトップからもパンチをもらってきたので、一発もらったくらいでは全然気にならない」