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《3年ぶり日本GP開催》Moto2注目の日本人ライダー・小椋藍が、得意のもてぎで勝利を狙える理由とチャンピオン争いの行方
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/09/23 06:00
アラゴンGPでは苦戦して表彰台を逃すも4位入賞した小椋。首位フェルナンデスを射程圏内に捉え、得意とするコースレイアウトの日本GPで首位奪取を狙う
それから10年間、サーキットでは原田選手との緊張の日々が続いた。レースを離れれば、一緒に食事をしてバカ話で盛り上がるが、サーキットではライダーとひとりの取材者との距離感に戻る。それは小椋も同じであり、今年も彼が本拠地とするバルセロナで何度も食事をして、終わった戦いのあれやこれやを聞かせてくれた。
今年はウインターテストから好調で、チャンピオン争いが期待された。その期待に応えて小椋は表彰台の常連に成長し、第6戦スペインGPと第13戦オーストリアGPで優勝、ここまで計6回表彰台に立った。
そんな小椋が今年もっとも厳しい結果に終わったのは、予選14位、決勝8位の第10戦ドイツGPだった。その前に行われた第9戦カタルーニャGPも予選10位、決勝7位と2戦連続で優勝争いに加われず、ドイツGPでは何をどうやっても解決策が見つからなかった。こういう時は、口数の少ない小椋がさらに寡黙になる。ある程度の時間が経ち、気持ちが落ち着いた頃に話を聞きに行ったのだが、彼は「いまは話したくない」と会話を遮断。いまは何も聞かないで欲しいというオーラが全身から放たれていた。
彼の言いたいことは手に取るようにわかった。つまり、自分はやれることはやったが、マシンのパフォーマンスがまったく改善しなかった。あれ以上は無理だった。でも、そうした怒りや不満を口にはしたくないし、言ったところでどうにもならない。そこで彼は「何も話さない」ことにしたのだろうと思った。
しかし、グランプリを運営統括するドルナのインタビューやチームのリリースには、何かを語らなければならない。そういうときの彼の言葉は、だいたいこういう言葉になる。事実だけを語り、それに対してのネガティブな気持ちは抑え込むというものだ。
「フリー走行、予選に比べて、決勝の結果は数字的には満足している。やれることはやった。でも、レースウイークを通じてなにも前進できなかった」
トレーニングを積み上げて得た進化
天才型か努力型かで言えば、小椋は間違いなく努力型のライダーだと思う。自分のライディングをしっかり分析し、自分が速い、逆に遅いコーナーやサーキットを良く知っている。良いところを伸ばし、ウイークポイントを改善するために、バイクに乗るトレーニングを徹底的に行う。
小椋の特徴を簡単に言えば、ブレーキングからパッと寝かせてすぐに加速していくようなコーナーは得意とするが、大きなRの続く中高速コーナーは苦手とする。スペインGPとオーストリアGPで圧倒的な速さで優勝し、カタルーニャGPとドイツGPで苦戦したのはそれが理由である。