技巧派集団の下部組織とあって、読売ユースもうまい選手ばかりだった。

　なかでも川平が一目置いていたのが、1歳上の都並敏史と戸塚哲也だった。

「都並さんはセンターバックとして活躍されていて、すぐにトップチームに上がっていきました。戸塚さんも手が届かない存在だったなあ。切り返しとか、引き球の股抜きなんて、『なんなの!?︎』って。トップチームも隣で練習していて、松木さんなんかは僕のことを『おい、ピー！』とか、『ティーだっけ？』とか呼んでくるから、『いや、ジェイです』って。可愛がってくれて（笑）」

読売クラブ時代の戸塚哲也（1985年）。川平にとって憧れの先輩だった1人　©︎BUNGEISHUNJU

　高校2年のときには2トップの一角を務め、全日本クラブユースで三菱養和サッカークラブと同点優勝を成し遂げた。その後、玉川大学に進学した川平は、留学経験のあったふたりの兄の影響を受け、すぐにアメリカに飛ぶ。

「兄貴たちがアメリカのキャンパスで女の子と一緒に写っている写真を見て、羨ましくて、俺も留学しようと。でも、理由はもうひとつあって。当時はまだJリーグがなかった。一方、アメリカにはNASL（北米サッカーリーグ）というプロリーグがあって、ペレやヨハン・クライフ、フランツ・ベッケンバウアーがプレーしていたんです。だから、アメリカの大学サッカーで活躍すれば、プロになれるんじゃないかって」

全米大学ベストイレブンに選出

　夏にヘストン大学に編入した川平は、サッカー部の練習場を調べ、ここでもノンアポで突撃した。

「マンガみたいなんだけど、スパイクを紐で結んで首から下げて、『walk-in』したんです。そうしたら、コーチが『ジェイ？ フロム・オキナワ？』って言うんですよ。よく見たら、そのコーチはなんとシーバーだった！　『ヘイ、コーチ！』って」

　読売仕込みのテクニックに加え、スピードも備えた川平は瞬く間にスタメンの座を獲得し、頭角を表していく。なんとその後、テキサス州立大学から全額奨学金で特待生として迎え入れられ、大学2年時には全米大学ベストイレブンにも選出された。

「これが僕のサッカー人生のピーク。街のハンバーガー屋に行ったら、『ヘイ、ジェイ！　ハンバーガーご馳走するよ』なんて言われて。完全に鼻が伸びきってましたね」

米大留学時代の川平慈英（本人提供）

米大留学時代の川平慈英（本人提供）

　だが、その鼻をへし折られる出来事が起こる。

　ドイツでコーチングを学んできたパターソンという指導者が新たに監督に就任すると、長身のセンターフォワードにロングボールを放り込む戦術に変わった。これに川平は納得できなかった。

「こんな酷いサッカーやってるところを、ジョージさんや松木さんに見られたら怒られちゃう。だから、できないと。『なんで言うことを聞かないんだ』と監督に言われて、『知らねえよ、こっちは花形スターだぞ』って。天狗もいいとこでしたね。そこからスタメンを外れて、最後は完全にベンチウォーマー」

　出番を得られないまま、その年のリーグ戦も残り6試合となった。このままではスカウトの目にとまらず、プロへの道は遠のいてしまう。川平は意を決して直談判した。僕の起用について、どうお考えですか――と。

「お前が戦術を理解して、練習で頑張っていればチャンスを与える、と言ってくれると思っていたら『ありがとう、ジェイ。私にチャンスをくれて』と言うわけ。なんのチャンスかと思ったら、『私はキミを使うつもりはない。構想に入っていない。他の大学へ行く気があるなら紹介状を書く』と言われてしまって」

　その事実を伝えるチャンスをくれてありがとう、という意味だったのだ。

©︎Kiichi Matsumoto

「シャリーン、と挫折の音を聞きましたよ。終わったなと。パッションのタンクはゼロ。このままアメリカにいてもしょうがないので、帰国しました」

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