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「思いっ切り投げたらどうなってしまうんだろう」DeNA平良拳太郎がトミー・ジョン手術から460日ぶりのマウンドにたどり着くまで「一番怖かったのは…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2022/09/12 11:00
トミー・ジョン手術のリハビリ期間を経て、8月26日に実戦復帰を果たした平良。本人に復帰までの道のりを聞くと…
体全体の感覚を取り戻す作業に取り組んだ
田中や東が身をもって歩んできた道のりやノウハウはチームの財産となり、平良に還元された。しみじみとした口調で平良はつづけるのだ。
「おそらく僕がTJ手術を一番最初にやっていたら不安でこんなに早く投げられなかったと思います。本当にサポートしてくれた方々には感謝しかありません」
術後にリハビリを開始し、春季キャンプ前には30メートル程度のキャッチボールができるようになっていたという。その後は自分の体とじっくりと向き合い徐々に投球感覚を研ぎ澄ませていくことに没頭した。TJ手術により一度フラットになった感覚を取り戻す作業は、言うまでもなく簡単なことではなかった。
「手術をする以前から、肘をかばうことで肩が痛むことがあったんです。ですから肘だけではなく、まずは体全体の使い方を馴染ませるというか、そこを戻していくのに一番時間がかかりました。自分では以前のイメージで投げているつもりでも、外から見るとポイントがずれていたりして、そこを修正するのが難しかったですね」
以前、田中にリハビリ期間中のことを訊いたとき「本当にしんどくて、心折れることもありましたね」と語っていたのが印象的だったが、平良はそういった状況に陥ることはあったのだろうか。
平良を支えたリハビリ仲間の存在
「いや、じつは1日もそういった気持ちになることはなかったんです」
意外な返答だった。その理由を平良は次のように教えてくれた。
「ちょうど肘のクリーニング手術などをした入江(大生)や櫻井(周斗)、飯塚(悟史)、齋藤(俊介)さんたちがリハビリ組にいて、みんなで一緒に前を向いて取り組むことができたんです。とくに入江あたりは明るいですし、お互い声を掛け合いながらやることで、下を向かずに済みました」
仲間たちのおかげもあり、平良は悲壮感を漂わせることなく、ポジティブにリハビリに励むことができた。
そんな平良が「これなら行ける!」と手応えを感じたのが、春になり初めてシートバッティングで投げたときのことだった。