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なぜ大阪桐蔭ナインはあれほど号泣していたのか? 西谷監督「負けているチームを応援する雰囲気があった」 絶対王者“焦り”の正体とは…
posted2022/08/23 17:05
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Sankei Shimbun
絶対王者の大阪桐蔭ナインがグラウンドに姿を現す。
ドラフト候補が打席に立つ。
そのとき、観客は必ずスマホを構える。
第104回全国高校野球選手権大会で見られた光景だ。
注目選手や指導者などそれなりに名の知れたチームは必ずと言っていいほど、観客のスマートフォンに収められた。
それらは漏れなくSNSで拡散された。Twitter、Instagram、YouTube、TikTok……ブルペン投球からベンチ前の円陣。シートノックの際に珍しいことがあると、その動画の再生回数は100万近くになる。
なぜ「絶対王者」はあれほど号泣していたのか?
そんな光景とリンクして忘れられないのは「絶対王者」大阪桐蔭が敗れた際に見せたナインの号泣ぶりだ。
相手の校歌斉唱を聴いていられないほどに泣き崩れる大阪桐蔭ナインはこれまでに見たことがなかった。
彼らはそれほどまでに追い詰められていたのではなかったか。
もちろん、過去の大阪桐蔭のナインたちが試合後に泣かなかった訳ではない。例えば、今ではプロ野球界で「タメ口キャラ」が定着している森友哉(西武)は高校3年夏の甲子園3回戦で敗れると、試合後には大粒の涙を流した。ただそれはグラウンドを去るまでの間だった。
ところが、今秋のドラフト候補でもある捕手・松尾汐恩は球場を後にしてリモート取材が始まっても涙が止まらなかった。
その姿に胸が締め付けられる思いがした。これほどまで彼らを追い詰めたものはなんだったのか。
なぜ「絶対王者」はあれほど焦っていたのか?
1回戦の最終日に登場した今大会の大阪桐蔭。その戦いぶりは圧巻の一言だった。
初戦・旭川大戦の序盤こそ主導権を握られたものの、逆転勝利を挙げるとそこから勢いに乗った(6-3)。2回戦の聖望学園戦ではセンバツベスト4の浦和学院打線を完封した聖望学園のエース・岡部大輝を粉砕。守っても4人の投手リレーで2安打完封勝利を飾った(19-0)。
3回戦の二松学舎大付戦では、初回に2点を先制すると、試合を優位に進めて4−0の完勝。敵将・市原勝人監督に「点差以上の力の差があった。2ランク以上レベルを上げないと勝てない」と言わせたほどだった。
そんな大阪桐蔭が準々決勝で下関国際にまさかの逆転負けを喫した(4-5)。
敗因はいくつか挙げられる。
一つが王者の「焦り」だ。