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なぜ大阪桐蔭ナインはあれほど号泣していたのか? 西谷監督「負けているチームを応援する雰囲気があった」 絶対王者“焦り”の正体とは…
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph bySankei Shimbun
posted2022/08/23 17:05
下関国際に逆転で敗れた大阪桐蔭ナイン。校歌斉唱の場面で涙が止まらなかった
大阪桐蔭は1回裏に2点を先制した後から下関国際の反撃を浴びたが、3回表に一死・三塁のピンチを招くと前進守備を敷いた。リードを考えず1点を守る守備陣形を取ったのだ。
今大会、無死または一死においてランナーを三塁に背負った時の守り方にチームのスタイルがくっきり出ていた。例えば、仙台育英は試合序盤では失点を覚悟して、前進守備を敷かない。準決勝の聖光学院戦では1回裏に1点を先制され、なお満塁のピンチとなったが、 最後は併殺打に抑えている。
41年ぶりの夏ベスト8を果たした愛工大名電も同様だった。また、明秀日立は打者が右か左かによって、遊撃手や二塁手を前進させず定位置で守らせたし、国学院栃木も1失点にこだわらない守備をしていた。
大阪桐蔭ほどの打力を持ってすれば、点差を詰められてもまた突き放せるだろう展開。それでも、3回から守りに入っていたのが気にかかった。結局このピンチでは、下関国際の2番・松本竜之介がちょこんとバットに合わせた打球が前進守備の内野を越していき、タイムリーになった。
9年ぶりだった…まさかの“トリプルプレー”
ここから試合はこう着状態に入る。5、6回に1点ずつを取り合う鍔迫り合い。食らいつこうとする下関国際の粘りに大阪桐蔭は、冷静さを欠いていった。
そこで起きたのが7回裏のトリプルプレーだ。
大阪桐蔭は無死一、二塁の好機をつかむと送りバントではなく、バントエンドランを敢行。これがピッチャー前への小フライとなって、スーパープレーを演出してしまったのだ(三重殺は9年前に愛工大名電が聖光学院戦で記録して以来、夏の甲子園では通算9回目だった)。
それでも9回表、下関国際の攻撃が始まる時点では1点リードしていた。しかし無死からの連続安打と犠打で一死二、三塁のピンチを招くと、内野は前進守備。そしてその間をぬうセンター前ヒットが転がり逆転を許したのだった。その裏、最後の攻撃はあっけなく三者凡退。4-5、逆転負けで春夏連覇の夢は潰えた。
「連覇のプレッシャー」だったのか?
かつてこれほどまでの強さを発揮する絶対王者を見たことがなかったが、これほどまでに脆く、焦る王者もまた見たことがなかった。
優勝候補が敗れた時に、敗因として「連覇のプレッシャー」がたびたび挙げられる。重圧を感じ、自分達のプレーが発揮できなかったのではないか、と。しかし大阪桐蔭は近年でも2度の春夏連覇(2012年、18年)があり、プレッシャーをモロに受けて力が発揮できないようなチームではない。
むしろ、そうしたプレッシャーを経験することの方が選手の成長につながると指揮官の西谷浩一監督は思っているほどだ。事実、西谷監督はこんな話をしている。