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大学野球PRESSBACK NUMBER
東大野球部は大阪桐蔭・根尾昂を誘っていた「彼が本気で勉強すれば、東大合格していた」東大の“新スカウト戦略”で甲子園経験者が増加中
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph bySankei Shimbun
posted2022/08/22 17:02
大阪桐蔭から2018年ドラフト1位で中日入りした根尾昂。中学時代の成績はオール5、その文武両道ぶりに東大野球部も早くから注目していたという
「大巻くんは奇跡的で、リアル『ドラゴン桜』でしたね。なにしろ、東大の受験に必要な科目である日本史Bが、花巻東のカリキュラムには入っていないんです。マイナスからのスタートでしたが、花巻東の佐々木洋監督らのサポートもあり、浪人はしましたがよく合格したと思います」
大巻は中学時代から成績はトップで、岩手一の進学校である盛岡一に合格できるレベルだった。しかし、甲子園に行きたいという夢を叶えるため、花巻東に入学したという。そんな折、懇意にしていた佐々木監督から浜田に連絡が入った。
「勉強ができる子がいるが、どういう指導をしたらいいのかと佐々木監督から尋ねられたので、会いに行きました。本人は東大を目指したいとのことだったので、受験対策をレクチャーし、佐々木監督に頼んで彼専用の勉強部屋を寮に作ってもらいました。彼がときどき東京に来た際には、東大野球部の寮で部員による勉強指導を受けさせたり、練習に参加させたりしましたね。彼には常に『次は赤門で会おう』と声をかけていました」
晴れて合格した大巻を、花巻東は最大限の栄誉をもって称えた。大谷翔平や菊池雄星のメジャーでの活躍を祝福する垂れ幕とともに、花巻東の校舎に「祝合格 東京大学」という垂れ幕がかかったのである。花巻東を訪ねた際にこれを目にした浜田は、すこぶる気分爽快だったという。大巻の後輩も東大を志望しており、良い先例を作ることができたと、浜田は目を細めていた。
「根尾くんが本気で勉強すれば、おそらく東大に合格していた」
大巻に限らず、中学時代の成績優秀者が強豪校に進んだと聞けば、浜田は全国に飛んで行く。中学時代はオール5だった根尾昂(中日ドラゴンズ)にも、もちろん勧誘を持ちかけている。
「根尾くんとは直接会ってはいませんが、彼が中学3年生で大阪桐蔭への入学が決まっていた際、同校野球部の西谷浩一監督に声をかけたことがあります。大阪桐蔭は進学コースと体育・芸術コースが分かれているので『根尾くんは勉強ができるそうなので、進学コースに入れてみてはいかがでしょう』と。ただ、よく聞くと、大阪桐蔭の進学コースのカリキュラムは厳しく、野球の練習時間がほぼ取れなくなるそうなんです。野球一本でやりたいというご本人の希望もあって、東大受験は実現しませんでした。ですが、彼が本気で勉強すれば、おそらく東大に合格していたと思いますよ」
根尾という大魚は逃したが、これを縁として、浜田は毎年の正月明けに、欠かさず大阪桐蔭野球部の部室に詣でるようになった。そこには、西谷監督の大好物のベビースターラーメンが大量に置いてあり、浜田はこれを食べて勝ち運をわけてもらう代わりに、前編記事で紹介した「東大」ハチマキを部室に置いて帰るのである。
「僕が死ぬまでに、東大野球部になんとか優勝してほしい」
ここまでの労を重ねて強豪校とのパイプをつなぎ、選手を勧誘するのは、当然、東大野球部の強化につながるからだ。しかし、ここで疑問が生じる。彼らのような野球エリートたちが入部すれば、東大野球部の多くを占める、1回戦ボーイたちの居場所がなくなってしまうのではないか。