「あの弾道だったんで『まさかいかないだろう』と思ったんですが、パワーのある浅野君の完璧なバッティングだったなと」

バックスクリーンへ2ランを放った浅野（2打席目） ©Hideki Sugiyama

　この試合、近江が得点すれば高松商が追いすがるシーソーゲームの様相を呈しており、相手の得点源は常に浅野だった。

3打席目もヒット…多賀監督が決断した

　3-2の5回。3度目の対決。

「低めは徹底して振らない」ことを念頭に置いていた山田は、初球のツーシームこそ空振りを奪うが2球目以降は、ことごとく見逃され6球目のツーシームをレフトへ運ばれた。そこから後続にもヒットを許し、同点とされる。試合はもはや、浅野が掌握しているような展開になりつつあった。

　山田は、浅野のバッターとしての器を再確認するように言う。

「懐が大きく見えると言いますか、そのあたり芯の強い選手なんだろうなって思いました」

　5-3の7回。4度目の対決。

　1死一、二塁と長打が出れば同点の場面で、監督の多賀が決断する。

「あの2ラン……私はすごく堪えました。『すごいバッターだな』と。山田は勝負したかったでしょうが、3打席もやられてましたし、私もすごく悩んだんですが」

　この場面で伝令を送った多賀がバッテリーに出した指示とは、申告敬遠だった。

　一塁ベースが埋まっている状況で敬遠を選択するケースは滅多にない。近江にとって浅野とは、それだけ脅威の象徴となっていた。

「あの場面ではないと思ってたんで、ビックリしました」

　この夏の香川県大会でも似たようなケースで申告敬遠を受け免疫のある浅野ですら、相手の決断には意表を突かれていた。

　裏を返せば、それだけ自らのバットで相手の手数を減らせたことの証左でもあった。

浅野は山田をどう見たか？

　1打席目はストレート、変化球ともに制球に苦しんでいると判断したため「フォアボールでもいい」と割り切っていたが、甘いコースのスライダーを弾き返した。

　浅野にとってのハイライトは2打席目だ。

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