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武豊に会いたくて阪大入学&お笑いの世界に…元騎手見習い芸人が振り返る“ニアミス事件”「あれから10年。成功の兆しは全く見えない」 

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松下慎平

松下慎平Shimpei Matsushita

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2022/08/20 11:01

武豊に会いたくて阪大入学&お笑いの世界に…元騎手見習い芸人が振り返る“ニアミス事件”「あれから10年。成功の兆しは全く見えない」<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

2022年、ドウデュースで6度目のダービー制覇を成し遂げた武豊。元騎手見習いの芸人・松下慎平は、憧れの名手と対面することができるのか

名手との対面チャンスを逃した「痛恨のボケ」

 関西の競馬番組で、「若手芸人コンビに翌年から馬券生活をさせる」という長期の企画の候補約10組に選ばれた。候補者たちに3レースの馬券対決をさせて、1位のコンビにその権利を与えるというものである。企画の特典で、騎手との対談なども考えているという旨も聞かされていた。

 もちろん私のコンビは大本命、なにせ見習いとはいえ元プロである。元騎手だと大々的に紹介され、私だけ有名な先輩方に混じってパドック解説をさせてもらい、諸々偉そうに話したことを覚えている。まさに特別扱い。それがよくなかった。私はわかりやすく調子に乗ってしまった。

 1レース目、みんなが真剣に予想する中、私たちは競馬初心者の相方が予想しためちゃくちゃな馬券を購入するというボケに走った。あの時の現場の白けた空気は忘れない。完全に間違えた。もちろん馬券は外れ、その後の2レースを的中させるも、最終レースで万馬券を的中させた競馬好きの同期のコンビが優勝し、企画の代表に選ばれた。その後、馬券生活の企画内で「武騎手に話を聞こう」というコーナーが設けられ、2013年のキズナでダービーを制覇し奇跡の復活を遂げた彼を前に感動の涙を流す同期。それをテレビ越しで見ながら私は頭を抱えることになる。まさに自業自得である。

 そうはいっても元騎手だ。芸人界広しといえど、唯一無二の肩書き。絶対近いうちに機会は訪れる。そう楽観していた。

「本当にこの道は武豊に続いているのか…」

 そしてそのまま約10年が過ぎた。もう笑うしかない。大抵、こういうお話は夢が叶ってハッピーエンドなのだが、まだ私は夢の途中にいる。芸人として成功の兆しは全く見えてこないが、このように想いを綴ることができるくらいには頑張ってきた。

 果たして本当にこの道は武豊に続いているのか。私にはわからない。わからないなら歯を食いしばって進むしかない。もう引き返すにしては、いささか遠くまで歩いてきてしまった。幸いなことに「彼が騎手じゃなくなってしまうのでは」というかつての危惧は杞憂に終わり、名手の輝かしい記録は今なお更新され続けている。

 その輝きに向かい、人生をかけて先の見えない道を歩む果てに、もし私が彼を見つけることができたなら、そのときはこう言ってもらいたい。

「アイ アム ユタカ・タケ」と。

前編から続く>

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「お前はユタカ・タケじゃない!」なぜ競馬学校の教官は“長手綱”にブチ切れたのか…武豊に憧れた元騎手見習いの芸人が明かすオーストラリア時代

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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