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東京五輪後の突然の悲報。“ルイスのライバル”、バレルの息子の死を受けて…親友が明かす世界陸上への思い「僕たちは一緒に行くんだ」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2022/07/23 06:12
世界陸上でスプリント王国アメリカのリレーメンバーの一員となったイライジャ・ホール
目標は五輪だったと思うが、東京五輪の選考会である昨年の米国選手権を欠場している。
調整がうまくいかなかったのか、怪我があったのかはわからない。東京五輪に行けなかったことが命を絶った理由なのかも今となっては誰にも分からない。
「ずっと普通に接していて、自殺の兆候など分からなかった」
残された家族や友人は口を揃え、同時に「なぜ、どうして」という思いを胸に今も過ごしている。
ルイスの指導を受けた唯一無二の親友を失った悲しみ
イライジャ・ホールはキャメロンの親友だった。ヒューストン大学陸上部のチームメイトで、2人で切磋琢磨してきた。大学4年時の全米学生選手権の100mではキャメロンが優勝、ホールは2位。400mリレーでは優勝するなど2人の相性はバッチリだった。
いつも一緒だった。練習も授業も、そして遠征も。
卒業後はそれぞれプロ契約をし、引き続きカール・ルイスの指導を受けていた。
シニアの米国代表デビューも一緒だった。2019年横浜で行われた世界リレー大会で2人は米国のユニフォームに身を包んだ。
兄弟のような存在が突然いなくなり、ホールはどん底に陥った。
「キャメロン、僕は毎日自身に問いかけている。どうして去ってしまったんだ」
「僕らは共に戦った。いつも一緒だった。愛してるよ」
「自分のすべてを捧げていい。キャメロンが帰ってきてくれるなら」
ホールはSNSで親友への気持ちを綴り続けた。
8月中旬から欧州遠征に出ても、常に考えるのはキャメロンのことばかりだった。
「今日はいいレースだった。明日も頑張るぞ」
「キャメロンがいなくて淋しい。耐えられない」
「シーズン最後のレースだ。全力で走ろう」
「気持ちよく走れた。でも生きているのがつらい」
残された側のホールは、いつも大きく気持ちが揺れていた。
オフになると気持ちがさらに落ち込んだ。