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東京五輪後の突然の悲報。“ルイスのライバル”、バレルの息子の死を受けて…親友が明かす世界陸上への思い「僕たちは一緒に行くんだ」
posted2022/07/23 06:12
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
「キャメロン、見てた? やったよ、僕たちは世界陸上に行くんだ」
陸上の全米選手権100mで9秒90の自己ベストをマークし、5位に入ったイライジャ・ホールは、喜びをこう口にした。
「決勝のスタートに立った時、キャメロンの存在を感じた。僕がちゃんと走れるように見守ってくれていたと思う。個人種目代表権の取れる3位に入れなかったのは残念だけど、でもリレー代表として精一杯走りたい」
ホールの目に涙はなかった。
東京五輪閉幕翌日の悪夢
2021年8月8日に東京五輪が閉幕した。
閉会式では選手たちが笑顔で入場し、互いの健闘を称えていた。その中には青、赤、白の星条旗カラーに身を包んだ米国の選手たちも混ざっていた。
その翌日、米国のスプリンター、キャメロン・バレルが自らの命を絶った。
26歳だった。
彼の死は米国陸上界に大きな衝撃を与えた。
ヒューストン大学時代に活躍し、将来が期待されるスプリンターという理由に加え、名スプリンターだったリロイ・バレルの息子ということも大きかった。
陸上好きの方には馴染みがある名前だと思うが、リロイ・バレルは100m9秒85の自己ベストを持ち、1991年世界陸上の東京大会では100mでカール・ルイスと接戦を演じて銀メダルをとるなど米国スプリントを牽引した一人だ。
両親ともに陸上経験者で、その背中を見て育ったキャメロンも自然と陸上の道に進んだ。リロイがコーチに名を連ねるヒューストン大学に進学。そこでリロイとともに陸上部で指導をするカール・ルイスから教えを受けてきた。
全米学生選手権はもちろん、世界ユース、世界ジュニア、ユニバーシアードなど各年代の米国代表に選ばれるなど着実に結果を出していた。