本郷　失うものはなにもないしワクワクする気持ちだけで行ったら、たまたま優勝候補の選手が失敗しちゃって、そこで自分がショートとフリーを揃えられていつの間にか優勝しちゃったっていう試合だったんです（笑）。

――自分の中でも調子が上がっている感覚だったのでしょうか？

本郷　いや全然ですよ。誰も知らないと思いますが、着いた日の練習は全く跳べなかったんです。移動疲れもあるしその日は先生も「頑張りなよー」って笑ってたけど、次の日に会場入りしたときに、氷があまり合わなかったんですよね。氷の硬い軟らかいもあんまり分からないクセに「なんとなくやわい気がする～」とか言って、なかなかジャンプのタイミングが合わずに、失敗ばかりを繰り返していました。それで先生がカッチーン！ってきちゃって公式練習中に「ちゃんとやれ！　試合に来てるんだろう！」ってめちゃくちゃ怒鳴られました（笑）。

　トレーナーの先生も「また理華怒られてるよ」ってクスクス笑ってるし、海外の選手にも「あの子めっちゃ怒られてる」みたいな目でジロジロ見られて……（笑）。そこで「ヤバい！　転んでもしっかり締めないと！」って思って、試合までの2日間で必死に頑張って徐々に調子が上がっていった気がします。そんなこともありましたね。

――そんな裏話があったんですね。

本郷　めちゃくちゃ怒られてますね。大人になってもずっと怒られています（笑）。

――本郷さんはこの試合で注目度を一気に上げることになりましたが、戸惑いもありましたか？

本郷　まず帰国したら空港であんなにカメラが回っていることにびっくりしました。ロシアから出国する前に「メダルは手荷物に入れなさいね」って言われたんです。でもなんで手荷物なんだろ～って思いながら、キャリーケースに突っ込んじゃったんですよね。空港で出迎えてくださる皆さんにメダルをお見せできるようにっていう意味だったんですけど、それに気づかないくらい、注目されることに慣れてなかったんです。

　空港で「ヤバい、ヤバい」って急いで探して「あったよ」みたいな（笑）。「だから言ったのに！」ってまた怒られて。カメラに囲まれてちょっと恥ずかしいなって思いつつ、でもすごくうれしかったです。

撮影＝山元茂樹

＜#2、#3へ続く＞

#2に続く

「五輪という夢だけが叶えられなかった」本郷理華25歳が語った“スケートが好きから義務になった瞬間”《特別グラビア》

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