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イチローに質問「打てない時の練習法ってありますか?」あの特別指導は高松商をどう変えた? “怪物スラッガー”浅野翔吾「恩返ししたい」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/07/17 06:01
昨年12月、イチローが特別指導を行った香川・高松商。あの日の教えを胸に、夏の県予選に挑む
濃密な時間を経て、選手たちはそれぞれの質問と答えを「イチローレポート」にまとめた。“金言”を共有して大切なことは全員で取り組んでいる。置き土産はまだある。帰り際、イチローはこんな言葉とともに黒バットをチームに残していった。
「僕に見られている気がするでしょ? みんなのこと見ていますよ」
「全国制覇してイチローさんに恩返ししたい」
甲子園で春夏通算4度の優勝を誇る強豪の選手たちにとって、見据える目標は「甲子園に出る」ことではなく「甲子園で勝つ」こと。3カ月後には県大会が始まるその戦いを、黒バットが、イチローが見守っている。長尾監督は言う。
「一番の成長は、子どもたちに“覚悟”が出来たこと。覚悟を決めて高松商業に来たんだから、覚悟を決めて目標を叶えるんだ。そんな強い思いで毎日練習に取り組んでいるのを感じています」
その先を見据える選手もいる。今秋のドラフト候補で、高校日本代表入りが有力視される浅野は、目指すべき場所を強く意識するようになった。キャッチボールで味わった強く正確な球の感触はまだ残っている。目に焼き付けたイチローのフリー打撃。「バテてからなお形を崩さずに全力で振ることが大事」とスイングを重ねる険しい表情に、頂きを極める者の強さを知った。
「多少打てるくらいで満足せずに、一流のプロ野球選手になることを目指して、もっと練習していきたい。まずは主将としてみんなを引っ張って、全国制覇してイチローさんに恩返ししたいです」
雨が激しくなってきた。ぬかるんだグラウンドで守る浅野が声を張り上げる。
「まだまだ元気出してくぞー! 逆に楽しんでやれ、野球を!」
笑顔の仲間たちは雄叫びで応じる。