「愛工大名電ならイチローさんが来るかもしれないと噂で聞いたので行きたかった。でもダメで、ここに来てみたらまさか……奇跡です。父も“夢が叶った”って！」

　名前の由来を聞き笑みがあふれたイチローは、江西の打撃をじっくり観察してから注意点を伝えた。バットを内側から出すための意識。インコースのボール球を見極める術として、打席で立つ位置まで細かく助言した。2日間を経て江西の憧れはさらに強まった。今まで上に引き上げていた投手側の足を本家そっくりの“振り子”にチェンジ。長打狙いから広角打法に意識も変えた。「調子がいいし、率も良くなったんです」と嬉しそうに明かした。

イチローが残した“金言”、そして…

「打てない時の練習法ってありますか？」

　そう質問した左打者の林息吹は、飛び切りの笑顔で背中をぽんと叩かれた。

「バット振っとけ！」

　数をこなすだけでなく「同じ練習を繰り返す」ことの大切さも教わり、あの日からティーバッティングを欠かさず続けている。

「バットを振る量は秋から比べたら倍以上。家でもしっかり素振りをしています。今の自分が去年の自分を見たら、全然練習してないやん！　って思うはず」

　春の大会では、リードオフマンを任された試合もあった。「1番ライトです。イチローさんと同じ！」。誇らしげに胸を張る。

　俊足の外野手、井櫻悠人はレフトを一緒に守りながら教えを受けた。目から鱗が落ちた、というのが「目線」の考え方だ。

「僕は打球にすぐ反応できるように、構える時に体を動かしていたんです。でも、それでは目線がブレてしまう。分かりづらい打球ほど我慢して見るんだよ、と。走塁も同じでリードを取る時に目線が上下するサイドステップより、クロスステップがいいと聞き、これはみんなで徹底しています」

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