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四球は悪なのか?”村神様”村上宗隆への失投にみる一考察「対策は考えなくちゃ」「フォアボールを恥だと思うからダメなんです」
posted2022/07/03 17:01
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Sankei Shimbun
1つの四球が全てを決めてしまう。
その重みを強く意識していたのは2008年の北京オリンピックで日本代表監督を務めた星野仙一さんだった。
このときの代表チームのリリーフ陣には阪神・藤川球児、中日・岩瀬仁紀らチームで絶対守護神として君臨している投手がいたが、星野さんがあえてクローザーに指名したのは巨人で先発を務めていた上原浩治投手だったのである。
上原は前年の07年に故障で出遅れたことと、チーム事情から抑え役に抜擢され、最終的には32セーブをあげていた。しかしこの年は本人の希望で再び先発投手としてリスタート。ところが開幕から不振が続き、4月末にはプロ入りして初めて故障以外で二軍落ちも経験するなど苦難のシーズンを送っていた。
「あいつは3球でツーワンにしよる」
ただ星野監督はそんな不振のどん底にあっても、上原を代表チームに招集することを早くから決め、しかもクローザーとして起用する構想を持っていたのである。
「あいつは3球でツーワンにしよる」
上原のクローザーにこだわる理由を聞いたときの星野さんの答えだった。
ツーワンとは1ボール2ストライクのこと。要は上原は3球であっさり打者を追い込む制球力と技術があるということだ。
そこが星野さんが上原を評価し、クローザーでの起用にこだわった理由なのである。
「1点差の接戦で9回に抑え投手をマウンドに送るやろ。そこでボール、ボールなんてなったら、それだけでオレは気が小さいからキンタマが縮み上がって、冷や汗がダラダラ出るわ!」
こう冗談めかして話していたが、舞台は五輪である。その大舞台で勝ち切ることの難しさを星野さんは知っている。だとすれば一番避けなければならないのは、僅差で勝っている試合で出てきたリリーバーが先頭打者をあっさり四球で歩かせることだと考えていたのだった。