オリンピックへの道BACK NUMBER
涙の失格、隠せない不安…それでもなぜ高梨沙羅25歳は“現役続行”を決意したのか? 再確認した“自分のために飛ぶ”覚悟
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2022/06/23 17:00
北京五輪では涙をのんだ高梨沙羅。それでも現役続行を表明した
「こうやって試合に出させてもらえたことがすごくうれしいことでもあるんですけど、結果を受け入れているので、もう私の出る幕ではないのかもしれないなという気持ちもあります」
自分の可能性を自ら疑うかのような痛切な言葉は、試合後の内面と受けた打撃の大きさをありありと伝えていた。
その2日後の出来事は、高梨にさらに大きな打撃を与えた。
混合団体のメンバーとして出場した高梨は、1回目のジャンプ後、スーツの規定違反とされ失格。それでも残された気力を絞り出すように2回目に臨み、好ジャンプを披露したが、最終的にチームは4位。その責任を一身に負うように涙し、崩れ落ちる姿があった。
オリンピックののち、ワールドカップの舞台へと戻り、シーズンを全うしたものの、戦い終えて容易にその先を決められないのも無理はなかった。
何度も口にしてきた「周囲への感謝の言葉」
でも、そのままでは終わらなかった。
「チームに貢献できるよう精進したいと思います。」の結びの前に、実はこう記している。
「今はまだ応援してくれている人たちの期待に応えられる自信は正直ないけれど、まずは自分の期待に応えられるよう日々練習を重ね」
自ら掲げた目標に届かなかった個人戦と、チームへの責任を果たせなかった思いに駆られた団体戦。その2つは、根底ではつながっている。
ジャンプの世界で台頭し世界のトップジャンパーとなってから、高梨は同じ趣旨の言葉を何度も口にしている。優勝したい、結果を出したいと言うとき、そこに続いていたのは、「先輩方への感謝を込めて」「応援してくださる方への感謝のためにも」という言葉だった。自身の目指す場所は、常に周囲への思いと結びついていた。