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大谷翔平「もっと早くこういう風にできれば…」14連敗を二刀流で断ち切るも恩師マドンは救えず… 番記者が聞いた“無念の言葉”
text by
阿部太郎Taro Abe
photograph byGetty Images
posted2022/06/13 17:02
昨年7月、エンゼルスのジョー・マドン監督(当時)とハイタッチする大谷翔平。同監督の常識にとらわれない起用法が“二刀流覚醒”につながった
その会見の前に、マドン監督は米メディア「ジ・アスレチック」のインタビューに応じて解任直後の心境をこう話している。
「少し、いや、かなり驚いた」
そして、データを重んじるフロントとの確執をほのめかした。
「最近は、あまりにフロントに支配されすぎて、野球を楽しめない。ミナシアンGMにも情報を整理するように話していたんだ」
そのインタビューを読んで、マドン監督が今季、データ主義に抗うような発言をしていたことをふと思い出した。
「少し刺激を与えるため」満塁で敬遠→逆転勝利
4月15日のアーリントンでのレンジャーズ戦。
1点ビハインドの4回1死満塁で、レンジャーズのコーリー・シーガーを迎えた。マドン監督はマウンドに向かい、オースティン・ウォーレンに告げた。「歩かせよう」。シーガーは好打者とはいえ、かつて満塁で敬遠されたバリー・ボンズのような圧倒的な打者とは言えない。それでもあえて1点を相手に与え、当事者の救援のウォーレンも「驚いた」と言った奇策を打った。
その決断は、データに基づいたものではない。試合の流れや選手たちの空気を変えようとする、マドン流の「勘」のようなものだった。
マドンはその場面を振り返って言った。
「数字は一つの側面で、人間がやることとは全く異なる。自分にとって、今日の判断は人間的な要素が詰まったもの。数学とは関係ない。ダメージを最小限に抑えるのにすべきことだったし、選手たちに少し刺激を与えるための手段でもあった」
ウォーレンは「マドン監督にノーとは言わない。彼をすごく信用しているし、結果的にうまくいった」と語った。
その日、エンゼルスは逆転し、大谷翔平の今季1号を含む2発などで打ち勝った。
大谷翔平への絶大な信頼「いずれ、打つよ」
マドン監督の大谷へのアプローチも、人間味に溢れていた。水原一平通訳も加わっての「対話」を重んじていた。
そこには「二刀流プレーヤー」として野球に全てを注ぐ大谷へのリスペクトがあった。