この試合で麟太郎は、大会屈指の好投手・米田天翼にインコースを徹底して攻められノーヒットに終わり、チームも初戦で敗れた。

「球速もあり、伸びがありました。徐々に修正していこうと思っていましたが、対応に遅れてしまいました」

　そう言って涙を飲み、「自分はまだセンスがない」と嘆いた。

　今年の東北には米田クラスのピッチャーはおらず、麟太郎にとってはおそらく、高校トップレベルと公式戦で対峙するのは初めてだったはずだ。そこで現実を突きつけられたことで、より向上心が高まったのではないか？

　そう麟太郎に向けると、やや誘導的になってしまったこちらの質問を、米田という各論ではなく、総論として返してくれた。

「素晴らしいピッチャーだとしても、どのコースを攻められたとしても、結果を残せない以上は実力不足なんで。練習試合を含め、センバツ前からもレベルの高いピッチャーと対戦させてもらうなかで『まだまだ』と感じているので、もっと自分を高めていかなければならないなと思っています」

　麟太郎はいつだって足元を見据えている。

　しかし、着実に前へ進んでいたとしても、監督が冷静な目で現在地を判断し導こうとしても、狂騒は止まない。

©Genki Taguchi

センバツ後、背番号は伝統ある「17」に

　麟太郎への、花巻東への関心は続く。監督はそんな現実と東北大会の敗戦を受け止めるように、注目の2年生スラッガーだけではなく、チーム全体へ促すように言った。

「夏に向けていい教訓にしないといけませんね。今日、負けたことによって引き締めて、プラスに転換してもらいたいです」

　監督でもある父のこの想い。息子はそれを背中から受け取っている。

　センバツまで「3」だった背番号が、この春は「17」に替わった。

　ただの控え選手の番号ではない。菊池雄星や大谷翔平をはじめ、若き希望が背負ってきた、伝統の背番号なのである。

　監督から直接言葉をかけられたわけではないというが、「17」を託された意味、花巻東の意志を全身に通わせるように、麟太郎が顔を上げる。声のトーンは、もう低くはない。

「この番号は、チームを引っ張っていくための期待をかけてもらっていると思っています。夏に向けてまたゼロからのスタートだと思ってやっていかないといけないですし、先頭に立ってチームを引っ張っていきたいです」

　麟太郎の奥底から、マグマのような重厚な唸り声が聞こえてくる。

　まだ周辺のざわめきによってかき消されてはいるが、その鼓動は、間もなく地上まで噴出せんとうごめいているようでもある。

　今は静かに、佐々木麟太郎の爆発を待とうではないか。

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