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216打席連続無三振…天才イチローを止めるのは誰だ? 雑草魂の左腕に訪れた千載一遇のチャンス「あのクソ生意気な打者に…」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNaoya Sanuki
posted2022/06/25 06:01
1997年シーズン、216打席連続無三振という異次元の記録を打ち立てたオリックスのイチロー。各球団のエースたちが三振を狙った
下柳にとっての原点はダイエー時代の93年、プロ3年目のある出来事だった。それまでは一軍への足がかりがつかめそうでも、肝心な場面で制球ミスに泣いていた。
「自分はそんなに強い人間じゃないんで。どうしても『当てたくないな』と思いながらインコースに投げるんです。でも、そういう球はことごとく弾き返された。当てちゃいけないと思った時点で球は真ん中へずれる。それで何度も痛い目を見ました」
ぶっきらぼうな強面の内側には繊細な優しさが潜んでいる。ただ、ことマウンドにおいてそれは命取りだった。2年間で一軍登板はわずか1試合。悩む下柳にその年、監督に就任したばかりの根本陸夫が告げた。
「壊れて辞めるか。結果を残さずに辞めるか。どっちか選べ」
“球界のフィクサー”と呼ばれた男の容赦ない通告に、下柳の中で何かが弾けた。
「壊れる方を選びます!」
その日から下柳は打撃投手をするようになった。試合前のバッティング練習で味方の打者へ投げる。真剣に、しかも内角へ。
下柳を強くしたチームメイトの冷たい視線
「打者には嫌な顔をされましたよ。ぶつける可能性もあるわけですからね。でも、このままじゃ首になる。それからは『当てたらどうしよう』でなく『当てたらごめんなさい』と思って投げるようになりました」
チームメイトの冷たい視線を浴びる日々が下柳を強くした。その日のゲームに投げるピッチャーが試合前の練習でマウンドに上がる。今では考えられないその日常の中で、下柳は生き残るための武器を獲得していった。左打者のインコースに投げきれるようになったことで、リリーフとして信頼されるようになっていったのだ。