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アントニオ猪木を引っ叩いて「立て!クソジジイ!」 鈴木みのる(当時20歳)が猪木をキレさせた“伝説の第1試合”の真相
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byEssei Hara
posted2022/06/11 17:01
1989年3月15日、愛知県体育館大会の第1試合で実現したアントニオ猪木vs鈴木実
猪木を引っ叩いて「立て!クソジジイ!」
この時の猪木vs鈴木戦、筆者は現場で観ることはできなかったので、試合内容も「かなり鮮明に憶えてるよ」という鈴木本人に語ってもらおう。
「カーンとゴングが鳴って試合が始まり、『さあ、殴ったるぞ』と思ったんだけど、猪木さんもちゃんと警戒してて、隙がないからなかなか殴れないんだよ。それで『これは殴ろうとするから避けられるんで、殴ろうとしなきゃいいんだ』と思って、そこからは殴りは一切やめて、レスリングでいったの。猪木さんもその前年にやった、藤波(辰爾)さんとの60分フルタイムの試合(88年8月8日、横浜文化体育館)を機に、クラシカルなレスリングに回帰する動きがあったんで、いわば新日本初期みたいなレスリングを猪木さんとやってね。
しばらくしたら、ついにサイドヘッドロックが取れたの。もう『きたー!』ですよ。自分の中では千載一遇のチャンス! そこから首投げをかけようとしたら踏ん張られたんだよ。でも、俺は内股をかけて倒して、上になった瞬間、猪木さんの顔を押さえて、バコーンって引っ叩いたの! それで『立て! クソジジイ!』って言ってね(笑)。
それでさらにスタンドで張り手にいったんだけど、そしたら猪木さんの顔色が変わって、弓を引くナックルパートを顔面にがっつり入れられて、頭がグラグラしてね。さすがに猪木さんも頭にきたんだろうね。そりゃそうだよ。いまハタチのガキに、俺がそんなことやられたら、死ぬまで殴り続けるよ(笑)。
そのあと、俺がジャーマンを仕掛けようとしたんだけどうまくいかず、最終的にボーアンドアローを掛けられて、ギブアップしないで耐えてたら、レフェリーにストップされて、カンカンカン!ってゴングが鳴って試合終了。『ギブアップしてねえよ!』ってレフェリーに文句言ったんだけど、『うるせえ!』って一喝された。要は『社長と長い時間やりすぎなんだよ』と、『7分も8分もやってんじゃねえ』って、あとでお灸をすえられた(結果は7分48秒、弓矢固めで猪木の勝利)。『デビューしたてのガキなんだから、もうちょっと適当にあしらわれておけよ』って、みんなが思ったらしくてね。試合が終わって控え室に戻った瞬間、まあ怒られたね」
殴るふりをして猪木が掛けた言葉とは?
試合後、鈴木は日本プロレス時代から猪木の側にいた大先輩レスラーに殴られ、さらにレフェリーにも殴られたという。そして猪木の控室に出向き「今日はありがとうございました!」と頭を下げると、猪木は立ち上がり、一度殴るふりをして威嚇した後こう言った。
「いいの食らわすじゃねえか。おまえ、俺んところに来いよ。俺が本物にしてやる」
猪木の視界にまだデビュー7カ月、ペーペー若手である鈴木実がしっかと入った瞬間だった。
しかし当の鈴木は、この翌日、3.16横浜文化体育館で飯塚孝之(高史)を破りデビュー2勝目を挙げたのを最後に新日本プロレスを離脱。当時の理想を求めてUWFへと移籍していった。
あれから32年――。53歳になった鈴木みのるは、日本だけでなくアメリカ、イギリスなど世界のマット界の最前線で闘い続けている。
“猪木イズム最後の継承者”と呼ばれた藤田和之は、きっとあの日の鈴木実のような、血気盛んな若手が現れることを待ち望んでいるのだ。
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