「強いのは分かっていましたが、自分が勝つという気持ちでリングに上がりました。勝って世界戦に繋げる、人生を変えてやるぞ、と。程よい緊張感で、緊張し過ぎるってこともなかったです。

　相変わらず井上くんはパンチもありましたけれど、スパーリングの時よりは遥かに戦えました。1ラウンドが終わってセコンドに『大丈夫、大丈夫』『いい感じだよ』と言われましたし、自分でも勝負になっているな、イケるなという手応えがありました。

　とはいえ、右ストレートやカウンターの左フックなどこちらのパンチも当たってはいたのですが、特に効いていないような感じでした。焦ったりはしませんでしたが、判定だったら負けるな、相手の地元でもあるので、何かしていかないと、という気持ちでしたね。8ラウンドあたりで、このままいったらマズイなと」

　田口も粘りを見せるが、ポイントは井上がとっていた。終わってみれば3ポイント差、5ポイント差、6ポイント差の0-3で挑戦者に軍配が上がった。

「最終ラウンドが終わって『あぁ負けたな』と感じました。悔しかったですが、もっと何とかなったんじゃないかという印象でしたね。そこまで完敗とも思わず、具体的に何かは分からないのですが、違う作戦でもっと巧く出来たんじゃないか、もしかしたら、ワンチャンスはあったかな……と思いました。また戦いたいという感情になりましたね」

　田口は井上戦の後、試合会場であるスカイアリーナ座間から友人の車で自宅に戻った。そこで体に異変を感じる。

「ずっと助手席で頭を膝につけるように体を折ったままでした。そうするしかないほど、気持ちが悪かったんです。その後も3週間くらい、頭痛が止まりませんでした。試合の翌日はやっぱり頭が痛くて、3日目からも毎日じゃないんですが、突如、激しい痛みに襲われました。

　井上くんはパンチもあるし、スピードもあるし、当て勘もいいし、テクニックも、打たれ強さもある。更にボディーワークも上手い。全てにおいて素晴らしいんですよ。『この人はボクシングをやるために生まれてきたんだな』って脱帽しましたね」

＜後編に続く＞

#2に続く

「あの日、井上くんが控え室まで来てくれて…」“井上尚弥に敗れた王者”田口良一がいま明かす「引退まで、彼以上のボクサーはいなかった」

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