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“最強のダービー2着馬”は? 成績は58戦5勝、それでも愛されたあの馬も「最強に“幸せな”2着馬かもね」《今年はイクイノックス》
text by
石田敏徳Toshinori Ishida
photograph bySankei Shinbun
posted2022/05/30 06:02
2008年日本ダービー。先頭を走るスマイルジャックはディープスカイに差され2着となったが、記憶に残る一頭だ
成績至上主義とは程遠い小桧山の信念を一方的に賞賛するわけではない。馬の値段は“欲しい”と思う人が多いほど高くなる。当然、走る確率も高いその馬に投資する馬主、引き受ける調教師がいて、競馬の世界の経済は回っていく。高馬に投資する人がいなくなれば、日本の競馬はたちまち進化の歩みを止めてしまうだろう。
しかし先の藤沢は「いい友人だと思っている」という小桧山についてこう話す。
「彼の仕事を見ていると“馬主さんに競馬を楽しんでもらう”という意識を強く感じるね。結果を出さなきゃと思い詰めると、人間は眉間にしわが寄ることになりがち。だけど、本当はそうじゃいけないんだ」
小桧山と’08年の2着馬スマイルジャック
ハッピーピープル・メイク・ハッピーホース。藤沢の著書に出てくる言葉だが、「ストレスを感じたことがない」と平気で公言する小桧山はそれを体現している。
「よその厩舎が巨大船の遠洋漁業なら、オレらは川で投網をやっているようなもの」
だから例年、勝ち星は少ない。とはいえ、そんなやり方でもときには“望外の大物”が獲れるのが競馬の世界の奥深さだ。小桧山の網にたまたまかかった凄い魚。それが'08年の2着馬スマイルジャックだった。
ダービー馬ジャングルポケットをはじめ、数々の活躍馬を所有してきた馬主の齊藤四方司は以前からの知り合いだったが、馬を預かる仲ではなかった。しかし小桧山の息子の同級生で、子供の頃から知っている稀勢の里へ「化粧まわしを贈りたい」と相談されたことをきっかけに親交が深まり、馬主と調教師としての付き合いがスタート。あるとき、デビュー前に死んでしまった馬の補償に、2000万円分の代馬を提供してもらうことになった齊藤に同行して足を運んだ牧場で、小桧山が2頭、選んだうちの1頭がスマイルジャックである。ちなみに白羽の矢を立てた理由は「以前、ウチにいた馬と同じ牝系だったから」だという。