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相撲春秋BACK NUMBER
「じつは、あの前日に休場するか迷ってたんです」断髪式直前・安美錦43歳がいま明かす、19年前・横綱貴乃花“最後の相手”になった日
posted2022/05/15 06:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Tomosuke Imai
令和元年(2019年)7月場所2日目、西十両11枚目の地位で右膝を負傷し、それまで度重なる大ケガを乗り越えてきた不屈のベテラン業師は、とうとう土俵を去る決断をした。この時、40歳9カ月――。
安美錦の相撲人生を入門時から見続けて来た好角家のコラムニスト・能町みね子さんは、安治川親方と同学年。この夏場所後の5月29日に両国国技館で開催される「安美錦引退 年寄安治川襲名披露大相撲」を前に、同じ昭和53年度生まれの“同級生対談”と相成った(全2回の1回目/#2へ)。
能町みね子(以下、能町) 私が大相撲ファンになったのは中学生の時で“平成4年初場所が初土俵”と言っているんですけれど(笑)。ちょうど貴花田(当時)が初優勝の場所です。私は平成6年3月に中学を卒業したんですが、相撲界では中卒の入門者が出てきますよね。当時、相撲専門誌を購読していて、「今後、自分と同じ年のお相撲さんを見ていこう!」と思ったんです。そうしたら、平成9年初場所で“高卒組”の同学年として杉野森竜児少年――安美錦関が入門してきたんです。
安治川親方(以下、安治川) 前年の12月に青森から上京して、高校卒業前に入門したんですよ。
能町 入門した時点で当時の安治川親方(元横綱旭富士・現伊勢ヶ浜親方)の従甥だとの情報があったので、私は高校生のくせに上から目線で、「お? 有望な子が入ったな」と思ったんです(笑)。結果的に、同学年のなかでは関脇として一番の出世頭になったんですよね。
安治川 あまりパッとしない“53年組”だったから(笑)。
能町 “花の51年組”がすごかったんですよ。元大関の千代大海(現九重親方)や栃東(現玉ノ井親方)、琴光喜などがいましたから。入門当時の安美錦関は細かったけれど、しなやかそうな体をしていました。
安治川 最近入門して来る子たちと違って、体もできてないし、ヒョロヒョロでしたよ。入門当時100キロはあったんだけれど。
能町 十両昇進まで、かなり出世は順調でしたよね。
安治川 入門から3年、21歳の時に部屋で初めての関取になったんです。
能町 「ついに私と同学年のお相撲さんが大銀杏を結うのか!」と思いました。確か、昇進は高見盛関(現東関親方)と一緒でした。
安治川 新十両も新入幕も一緒でね。しかし、能町さん、よく憶えていますねぇ。
「じつはあの前日、休場しようかと思っていたんです」
能町 その後、横綱貴乃花に勝つという“大事件”も起こしましたよね(笑)。平成15年初場所での大金星で、なんだか、体がゾワッとしちゃったんです。