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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「試合が怖くなった…」元“筋肉アイドル”才木玲佳29歳が明かしたプロレス愛と“引退の本当の理由”《特別フォトインタビュー》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama/Norihiro Hashimoto
posted2022/05/01 11:03
“筋肉卒業”後、独占インタビューに応じた才木玲佳(左)/プロレスラーとして3本のベルトを巻いた(右)
「タイトル絡みの試合は特によく覚えてます。最初に優宇さんに挑戦して負けて“まだまだだな”と実感した試合だったり。(坂崎)ユカさんに勝ってトーナメントに優勝。ユカさんには連勝でベルトも巻けました。ベルトを取られた相手はエースの山下(実優)。みんな私と闘った頃より強くなって名も上げてますよね。凄い選手たちとやってきたんだなって。東京女子の今の盛り上がりの基礎を作れたのなら光栄ですね。山下とは今も仲がいいんですよ。アクションスクールで練習したり、ご飯も行きます。何を話してるかって? 恋バナです(笑)」
さらに刺激を求め、東京女子を離れてWRESTLE-1所属に。アクトレスガールズでもシングル王座を手にした。WRESTLE-1ではレジェンドレスラーの胸を借りたことも。東京女子ではトップ選手だったが“外”に出て格上の選手に負け、そこから這い上がるという経験もしてみたかったと振り返る。
「ジャガー(横田)さんとの試合は感動しました。体格は私と変わらないのに懐が深くて。引き出してもらったというか“あぁ、プロレスしてる!”っていう感覚になりました」
巻いたベルトは2団体、計3本。“タレントのプロレス挑戦”として一般的に想像されるレベルの何段階も上のところで試合をしていた。それが伝わらずに悔しい思いをすることもあった。
「東京女子は他の団体とほとんど交わらないので、見ていない人からどうしても舐められちゃうんですよ。私もですけどアイドルが参戦してるし“東京女子はプロレスじゃない”みたいに言う人もいました」
名前は広まっても“実質”がなかなか伝わらない。考えてみればトレーニングで筋肉をつけることもそうだった。「何を目指してるの?」、「女の子にそこまで求めてないよ」と言われる経験は“女性トレーニーあるある”かもしれない。
「出演番組を全部キャンセル」怪我のトラウマの真相
2019年8月、試合中に顎の骨を折って救急搬送。それ以来プロレスはしていない。そして今回、“筋肉卒業”とともにプロレスも引退することになった。5月3日の東京女子プロレス後楽園大会で、Cheer1の後輩でもある遠藤有栖と引退エキシビジョンを行なう。
「東京女子には自分からお願いに行きました。一度は離れた団体ですけど、選手としてプロレスが好きになったのは東京女子のおかげなので。ケガをして試合も仕事もできなくなった時に、もう離れていた私のグッズを販売する企画をやって助けてくれたり。そういう恩は忘れてないです。他の団体からオファーもあったけど、復帰するなら東京女子って決めてました」
ただ、復帰は叶わなかった。引退試合をすることも考えたが、エキシビジョンにした。その理由も、才木らしく筋の通ったものだ。ケガによるトラウマはもちろんある。しかしそのトラウマも、単に“怖い、痛い”というだけのものではない。
「復帰も考えたんですけど、タレントのお仕事も忙しくなってきた中では難しいんですよ。たとえば月に1回のゲスト参戦なら可能。でもそれでは私が納得できないんです。プロレスをやるならしっかりレギュラー参戦して、タイトル戦線で闘いたくて。中途半端な形では続けたくないなって。
ケガをしてプロレスの試合が怖くなったということもあります。その怖さには“いろんな人に迷惑をかけてしまう”という部分もあって。顎を折った時には、決まっていた番組を全部キャンセルしなくちゃいけなかった。私がケガをすると、出場しているプロレス団体だけじゃなくテレビ局やスタッフさん、共演するみなさんにも迷惑がかかる。私はそういう存在なんだって、ケガをしてみて気付きました。
怖さを乗り越えて、1回だけ引退試合をやってもよかったんですかね。でも私の性格だと“1回できるなら復帰だってできるはず”と思うんですよ。でも、応援してくれた人たちに、最後に闘う姿を見てほしい気持ちもある。凄く悩んで、エキシビジョンという形ならなんとかできるかなって」
やるかやらないか、自分に何ができるのか。考え抜いてできる限りのことをする。そういう人間だからチャンピオンになることができたし、“筋肉卒業”を宣言することにもなった。レスラーとしての実動期間は3年半。太く短く、記憶も記録も残して、才木玲佳はリング上での人生を生き切った。
《後編に続く》
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。