競馬PRESSBACK NUMBER
《皐月賞》ゴールドシップ“驚異のワープ”、エフフォーリアGI初制覇など数々のドラマが…レース後に掛かってきた「藤沢和雄からの電話」
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byKYODO
posted2022/04/15 11:05
2012年の皐月賞を制したゴールドシップ。後方からの“ワープ”も話題に
今年はキラーアビリティと連覇を狙う
結果は思惑通り。バラけるや先頭に立ち、そのまま2着のタイトルホルダーに3馬身の差をつけてゴールに飛び込んだ。
「GIの直線で抜け出したのは僕自身初めてだったので最後まで余裕はありませんでした」
だから勝ったと分かったのはゴールイン後だったと笑った。
その後、横山武史騎手とエフフォーリアはダービーこそハナ差でシャフリヤールに敗れたものの、秋には古馬を相手に天皇賞・秋と有馬記念を制覇。JRA賞年度代表馬に選定される。
また、タイトルホルダーでは菊花賞を5馬身差で逃げ切ると、キラーアビリティとのコンビでは皐月賞と同じ舞台のホープフルSを優勝。皐月賞の時には「余裕がなかった」と語るGIレースを1年と経たぬうちに5つも制してみせた。
あれから1年、今年はそのキラーアビリティとタッグを組み、皐月賞連覇を狙う。1年前とは勲章の数が違う分、余裕も出来ただろう。すっかりトップジョッキーとなった彼の手綱捌きに注目して応援したい。
忘れられない“もう一頭の皐月賞馬”とは
もう1頭、皐月賞といえば忘れられないのが16年のディーマジェスティ(美浦・二ノ宮敬宇厩舎)だ。
同馬は直前に共同通信杯を制していたが、この時は10頭立ての6番人気、単勝22.6倍という事でフロック視されたか、皐月賞でも18頭立ての8番人気、単勝は30.9倍と軽視されていた。
蛯名正義騎手(現調教師)を背に、序盤は後方から進んだディーマジェスティ。直線に向くと末脚を爆発させた。前を行く1、2番人気のサトノダイヤモンドとリオンディーズを並ぶ間もなくかわすと、完全に抜け出した。最後にマカヒキが追い上げて来たが時すでに遅し。後のダービー馬に1と4分の1馬身の差をつけてディーマジェスティは堂々と戴冠した。
この勝利が印象に残っている理由は2つあった。
1つは二ノ宮調教師が管理していたという事。同調教師はエルコンドルパサーとナカヤマフェスタでいずれも凱旋門賞(フランス)を2着した伯楽。馬術的な要素を競走馬の世界に持ち込んだという意味ではかなり先人と言って良く、また常に沈着冷静で大レースのゴール前でも決して叫んだり騒いだりせずに見守る姿勢はいかにもプロフェッショナルと感じさせた。
現在まだ69歳で、本来なら来春が定年となるはずだったが、この皐月賞から2年と経たぬ18年の春、体調不良を理由に厩舎をたたみ勇退した。結果的に最後のGI制覇となったこの皐月賞は、思い起こす度に何か切ない感情が湧く。そういう意味でも印象に残るレースである。
皐月賞後、藤沢和雄からの一本の電話
そして、もう1つの理由。それはレースが終わって何時間か後に入った1本の電話に関係していた。
かけてきたのは藤沢和雄調教師(引退)。受話器越しに「この血統の馬が花開くとはなぁ……」と感慨深げに言った。
ディーマジェスティは父ディープインパクト、母の父はブライアンズタイムという良血馬。しかし、藤沢和調教師が注目したのはそこではなかった。
ディーマジェスティの母はエルメスティアラで、そのまた母はシンコウエルメス。今春引退した伯楽は、当時この母系に思いを馳せていたのだ。
先述した通りディーマジェスティの母はエルメスティアラでそのまた母はシンコウエルメス。この両頭こそ藤沢和調教師が管理した馬だった。