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[ボンズ、クレメンス落選は正しいか?]MLB殿堂を巡る晴れない思い
posted2022/04/02 07:01
text by
小西慶三Keizo Konishi
photograph by
Getty Images
本当にあれでよかったのか――。
アメリカ野球殿堂の選出者発表からもう2カ月が過ぎたというのに、まだスッキリできない自分がいる。労使交渉がやっと決着し、26日遅れで始まった2022年キャンプ。本来なら前向きな気持ちで選手たちを追っていたはずだったのに……。
わだかまりの原因は史上最多762本塁打を誇るバリー・ボンズと通算4672奪三振、サイ・ヤング賞7度のロジャー・クレメンスの落選にある。2人には候補資格10度目の今回がラストチャンス。殿堂入りは全米野球記者協会に10年以上所属する者による投票で75%以上の票を得なければならないが、ボンズは66.0%(260票)、クレメンスは65.2%(257票)だった。
パフォーマンス向上目的の薬物を使った疑いが強いながらも、メジャー史に残る活躍をした2人。この投打の超大物に対する投票結果は、1980年代後半から2000年代前半にかけての「ステロイド時代」を包括的にどう捉えるべきかの結論になると思われていた。もちろん2人の落選の事実は厳粛に受け止めるほかないが、自分を含め多くの投票者に後味の悪さを残したのも確かだろう。というのも、既に何人もの〝灰色〟選手が殿堂入りしているからだ。
例えば、近年ではマイク・ピアザ(2016年選出)、ジェフ・バグウェルとイバン・ロドリゲス(ともに2017年選出)にも薬物使用の噂は絶えなかったし、今回初年度投票で選ばれたデービッド・オルティスは、MLB機構が2003年に非公式に行った検査で陽性反応を示したとされる(オルティス本人は不正薬物使用を強く否定している)。いわば今回の結果が、ステロイド時代の投打の象徴をスケープゴートとし、「臭いものにフタ」とばかりに忌まわしい過去を封印してしまう動きにつながらないか、と気になったのだ。