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カープ戦力外→独立L・育成から這い上がり…清宮幸太郎に被弾も翌日4年ぶり勝利! 苦労人のホークス藤井皓哉25歳〈週間セパ記録〉
posted2022/03/29 11:07
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kyodo News
2021年8月29日、筆者は高知県の高知市東部球場にいた。四国アイランドリーグplus、高知ファイティングドッグスのドラフト候補に取材するためだった。高知の関係者から2人の選手を紹介を受けたが、スタッフの1人は「うちのエースはドラフトにはかからないから」と言った。
それが藤井皓哉だった。
藤井皓哉は、2014年おかやま山陽高校からドラフト4位でプロ入団した右腕である。広島には6年在籍したものの、一軍では14試合で1勝0敗、防御率7.94と活躍できなかった。2020年に戦力外になって、高知にやってきた。
NPBで働けなかった選手が独立リーグに移籍することは珍しくないが、多くは独立リーグでもぱっとしないままに消えていく。
しかし藤井は違った。
5月9日のソフトバンク三軍との交流戦で、リーグ史上4人目のノーヒットノーラン。そしてこの日のソフトバンク戦でも圧倒的な投球を見せた。
高知市東部球場のバックネット裏には冷房設備が一部しかない。ソフトバンク三軍のコーチ陣、関係者も残暑に汗だくになりながらマウンドを見つめていたが――そのうちの一人が「藤井ってこんなにすごかったっけ?」と言っていたのが記憶に残っている。
この日の藤井は8回を投げて被安打2、9奪三振1与四球、自責点0。113球の力投で、5月の対戦に続いて、三軍とはいえソフトバンク打線をまたもや零封した。
打者にのしかかるような、投げおろしの豪快なフォームが強く印象に残った。高知の吉田豊彦監督は「藤井は落ちるスライダーを身につけたのが大きい」と言った。
延長戦が復活する中で救援投手の枚数を増やしたい
2021年のNPBのトレード期限は8月末日だったが、残念ながら藤井が呼ばれることはなかった。しかし12月になって、ソフトバンクから声がかかり、育成契約で入団が決まった。
2022年のシーズンからNPBは延長戦が復活し、12回制となった。どの球団も救援投手の枚数を増やしたいところ。藤井皓哉はそうした環境の変化もあって復帰がかなったのだろう。
背番号は157。40人近くいる育成選手の1人になったが、彼の立ち位置は「育成目的」ではなかった。すでに25歳で、今年結果を出さなければ後はない。