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原辰徳を“がっくり”させた中日・落合博満の“采配”「先発は山井ではなく小笠原」 参謀・森繁和が明かす07年CSで感じていた“巨人への恐れ”
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/03/26 11:03
落合が退任する'11年まで続いた6年に及ぶ全面戦争。直接対決のCSを含めた通算成績は落合の83勝71敗3分だった
「お前も自分で采配をしてみろ」
2013年のオフ、38歳となった井端は中日を自由契約になった。その時、声をかけてきたのが原の率いる巨人だった。かつて仇敵だった井端に、原はこう言った。
「ベンチにいることが多くなるかもしれないが、お前も自分で采配をしてみろ。何か疑問に思ったこと、言いたいことがあれば、遠慮なく俺に言ってこい」
間近に接した原は選手ひとりひとりの肩を抱く指揮官であった。決して選手と交わらない落合とは、やはり対極に見えた。
ただ、1シーズン、2シーズンと共に戦っていくうちに気づいたことがあった。
《言葉に力があるというか、自分の発言によって周りを動かしていくところが、ああ、落合さんとかぶるなと思うことがあった》
落合さんと原さんは同じだったような気がする……
敗戦の後、原は決まってメディアに印象的な言葉を残した。翌日の紙面では、勝敗とは関係なくその発言がクローズアップされ、選手たちは「そういえば、俺たちは昨夜負けたのか?」という錯覚に陥る。
それは、普段は無言を貫きながらも、敗れた後だけは雄弁になった落合と通じるところがあった。
《チームのマネジメントに関して、原さんから「落合さんはこうやっていただろ?」と訊かれたことが何度かあった。選手を黙って見ている落合さん、導いていく原さん、方法は違うんだけど、最終的にプロフェッショナルな選手をつくるっていうところは同じだったような気がする……》
井端はふと、落合と原がしのぎを削っていた時代を思い出した。
もしかすると、原も、巨人というチームも、時々に立ちはだかる相手から少しずつ何かを吸収して大きくなっていったのかもしれない。そして、やがては相手を飲み込み、最後に笑うのだ。
刻々と変化しながら、勝者であり続ける原巨人を見ていると、その底知れなさを感じずにはいられないのだった。
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