巨人から、これほどの圧力を感じるようになったのは

　もっともっと点を取らなければならない……中日の井端弘和はショートを守りながら、自らを急きたてていた。東京ドームのスコアボードを見上げる。5回を終えた時点で4－1とリードしていた。先日、リリーフで投げたばかりの小笠原が先発マウンドに立ったのは味方ながら驚いたが、ここまで巨人打線を右バッター谷佳知のソロホームランのみに抑えているのは、相手の裏をかいたことが功を奏しているようだった。打線も巨人先発の内海哲也を4回でKOした。表面上はすべてがうまく回っているように見えたのだが、どういうわけか、井端の内面には絶えず何かに追いかけられているような焦燥感があった。

《あの年ぐらいから、何か小さなきっかけで一気に逆転されてしまうような怖さが常にあった。他の球場で他の球団を相手にしていたら、3点あれば大丈夫だという気になれたけど、東京ドームの巨人戦だけはセーフティーリードがない感じだった……》

　これまで自分たちが優位だったはずの力関係が逆転していく。巨人から、これほどの圧力を感じるようになったのはいつからだろうと井端は思った。スマートなイメージの敵将から、いつしか漲るような執着が発せられ、対峙すると常に追い立てられるような緊張を強いられるようになっていた。

巨人との第1戦での落合、荒木、井端　©BUNGEISHUNJU

原さんと落合さんはじつは似ているような気がした

　そして、その緊迫感には覚えがあった。それは自軍の将、落合が発散しているものと同質であった。

《原さんと落合さんは全く違うように見えるけど、じつは選手を使い続ける我慢強さ、油断させない緊張感、勝つためには周りに何と言われようと、とことんやる執念みたいなものが、似ているような気がした》

　井端は相手のベンチを見た。原がいた。巨人軍の生え抜きスターとして若大将と呼ばれた頃のまま、先頭に立っていた。

　自軍のベンチには落合が微動だにせず座っていた。感情の読み取れない表情の中に、眼光だけを油断なく光らせていた。

　まるで対極にいるようなこの2人の指揮官が、時折重なって見えることが、井端には不思議だった。

　そして、両者が散らす火花の狭間で身を硬くするのだった。

【次ページ】　「怖かったんだよ……」