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「主将としての優勝を諦めていない」胃がんステージ4告白の藤井直伸(30)が前を向く理由…妻・美弥さんも「ここからがまた2人の始まり」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2022/03/02 11:04
胃がんステージ4であることを自身のSNSで明かしたバレーボール日本代表の藤井直伸(写真は2021年9月アジア選手権)
東レでも日本代表でもコート内では常に明るい表情で、点を取れば甲高い声を張り上げながら走る。
篠田監督の言葉を借りるなら、技術では藤井に勝るセッターは何人もいるが、たとえ試合の途中からでもコートに入るだけで“何かやってくれるのではないか”、“何かが起こるのではないか”と空気を一変させる。それをできるのは藤井だけだった。
グイグイ引っ張り前へ出るリーダータイプではなかったが、面倒見がよく、優しい人柄で、西田有志や高橋藍といった若い選手たちも藤井を慕った。
昨年、元日本代表の佐藤美弥と結婚
ここまでを振り返っても、やっぱり藤井の笑顔しか浮かんでこない。そんな彼が、この事態に直面し、病名の告知を受けた時、どれほど苦しかっただろう。想像するだけで胸が痛い。何しろつい最近、年末の天皇杯でもトスを上げ、準決勝で敗れた後は自分の力不足に「悔しい」と泣いていたのだから。
私生活に目を向ければ、元日本代表で同じセッターの美弥(旧姓・佐藤)さんと結婚したばかり。号泣しながら手紙を読んでプロポーズしたことを赤裸々に記したコラム(2021年11月22日配信)を見て「恥ずかしい」と言っていたが、掲載された翌朝には、社宅で偶然会った先輩選手に「癒された」と褒められて喜んでいた。美弥さんがそうのろけていたのもつい最近の出来事だ。
なぜ自分なのか。なぜ今なのか。不安や恐怖、結婚したばかりのパートナーへ「申し訳ない」と思う気持ち。数えきれないほどの「なぜ」と直面しながらも、その現実を受け入れ、藤井は前を向いた。
それは、共に歩む美弥さんも同じだ。自分が気づけたのではないか。もっと早く何かできたのではないか。何度も後悔した。だが、隣にいる夫は、誰よりつらいはずなのに強く、この現実と立ち向かうと決めた。その覚悟が美弥さんを強くした。
「ここからがまた2人の始まりなんだと思います。こんなに大切な人が、1人でいる時じゃなくてよかった。結婚して、家族でよかったです」