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現役騎手を続ける大井の帝王・的場文男(65)の“引き際の美学”とは? 2着10回の東京ダービー制覇は「もう諦めた(笑)」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2022/02/27 11:01
「大井の帝王」として今も現役で活躍する的場文男。60代半ばを迎えても、体力面の衰えはほとんどないという
「ほかの競馬場にも乗りに行けば、年間100勝くらいできるかもしれないね。だけど、ここまでやったからもういいか、という気持ちもある。それに、川崎や船橋でナイターに乗ると、大井に帰ってくるのが午後10時ごろになるでしょう。大井のナイターなら、そのころにはもう寝ることができる。最近は、ナイターのないときは夜7時半か8時には寝て、朝4時に起きて調教に乗る、という生活リズムになっているからね」
今も毎朝5、6頭の調教に乗っている。朝起きるのがつらいと思ったことはないかと聞いたら「まったくない」と即答した。
先述した大怪我のほか、最多勝記録を更新する少し前には落馬で左ふくらはぎを20針縫う怪我をしたり、2020年の12月から21年1月にかけても負傷して戦線を離れたりと、怪我との戦いもつづいているのだが、今、体の状態はどうなのだろう。
「体はぜんぜん大丈夫。馬を動かす体力はあるよ。体が硬くなって、年を取ったなと思うこともあるけど、勝つ自信はある。おれにはこれしかできない。だから、やるしかないんだよ」
ウエイトトレーニングなど、フィジカル面のケアはどのようにしているのか。
「55歳くらいまでは、走り込んだり、バイクを漕いだりしていたけど、ここ何年かは、疲労を残さないようにする程度。体重は51~52kgで、平和島のサウナで1kgくらい落とすこともあるかな。すごく上手なマッサージ師がいて、2、30年やってもらっているよ」
悲願の東京ダービー制覇は「もう諦めた(笑)」
まだまだ勝てる。となると、これまで39回騎乗して10回も2着になりながら、いまだ勝利のない東京ダービーの制覇を期待してもよさそうだ。それについて、自身はどう考えているのだろう。
「もう諦めた(笑)。10回の2着だけじゃなく、あのレースにはいろいろな思い出があるね。一番悔しかったのは、羽田盃まで負け知らずのブルーファミリーで5着になったこと(1993年)。勝てる馬だった。調教師が『外枠希望』をして大外枠を選んだから、おれは乗らないと言ったんだけど、自分が責任を取ると調教師が言って、そのままになったんだ。ナイキジャガー(1996年)も、つかまっていれば勝てる馬だったけど、羽田盃を勝って怪我をして出られなかった。その東京ダービーより勝ちづらい、交流GIの帝王賞や東京大賞典をいくつも勝ってるから、それは自慢できることだと思う」