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鍵山優真が父・正和コーチに「オリンピックで優勝したい」と告げた日…北京五輪銀メダリストの原風景は“父のスケート”だった
posted2022/02/15 11:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Atsushi Hashimoto
非公認ながらジュニア世界最高点を記録した期待の新星・鍵山優真。急成長を遂げる彼の傍らには、五輪に2大会連続で出場した父・正和コーチがいた。試合後に明かした父からの教えと今後の目標とは――。
圧巻のノーミス演技で、積み重ねてきたものを一気に開花させた。11月15~17日に行なわれた全日本ジュニア選手権。SPでトリプルアクセルのミスがありながらも首位発進していた鍵山優真は、映画『タッカー』の音楽に合わせたフリーで、2本の4回転トウループを含む7本のジャンプすべてを成功させた。スケーティングの美しさも備えた完璧なパフォーマンスだった。
リンクサイドでは'92年アルベールビル、'94年リレハンメル五輪の男子シングル日本代表である父・正和コーチが泣いていた。父子2人が並んだキス&クライで目にしたスコアはフリー171.09点、合計251.01点。非公認ながらいずれもジュニア世界最高点だ。ジュニア4年目にして悲願の国内初タイトルを手にした鍵山は、涙をぬぐう父の横で最高の笑顔を浮かべていた。
歓喜の翌日、ホームリンクの横浜銀行アイスアリーナに鍵山を訪ねた。お気に入りのキャラクターだというスヌーピーの布製のトートバッグを手に、前夜は興奮して午前2時頃まで眠れなかったとはにかみながら、大会を丁寧な言葉で振り返った。
「フリーでは、SPを1位で通過して、その順位を守らなければいけないという、すごい緊張感がありました」
それほどに今回の大会に懸ける思いは強かった。演技前、体全体がこわばってしまいそうな状況で、一番胸に響いたのが、父の「今までやってきたことを信じて、自分自身を信じてやれ」という言葉だった。気持ちにスイッチが入り、『タッカー』の曲と同時に楽しい踊りの世界が始まった。
「緊張した空気を楽しもうと自分に言い聞かせて、すごく楽しんでやりました」
その先につかんだ優勝だった。
飛躍のきっかけになった「父のひと言」
初々しさの中にも意志の強さを感じさせる16歳だ。今季の飛躍のきっかけとなったのは4回転ジャンプの習得。背景には、滑りにスピードがついたことに加え、父の的確なアドバイスがあった。
練習で4回転トウループを初めて着氷したのが今年3月。'90年代前半に日本人で初めて4回転ジャンプに挑んでいた父からは「締める時だけ力を入れれば跳べる」と助言された。実際にやってみると、それまで跳ぶたびに感じていた体力の消耗が減り、楽に跳べた。そして、わずか1カ月後の4月にはもうプログラムに組み込み、実戦で成功させるのである。
「それまでは最初から最後まで気合いを入れてやっていたのですが、締めること一点だけに力を使えば、無駄な力を使うことなく跳べるのだと分かってきました」