Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
“笑わない男”稲垣啓太が結婚! 強靭メンタルの秘密と、変えたいと願っていたラグビー選手像「まだ質素なイメージありませんか?」
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2022/01/26 17:03
結婚を発表したラグビー日本代表PR稲垣啓太(31)。屈強な男たちの中でも際立つ「強靭なメンタル」の秘密に迫った
「まずやっぱり、ラグビー選手として自分がやってきたことは間違っていないし、日本人だってこれだけできるんだってことです。長らく日本のラグビーは弱いと思われていたけど、自分が信じて積み重ねてきたことを100%フィールドで遂行することができれば、どんな強い相手にでも通用するんだっていうことを、去年のW杯の舞台で少しは証明できたと思うんです。そこを引き続き伝えていきたいですね。
あとは、ラグビー選手の価値も上げていきたい。僕が子供の頃、野球選手に憧れたように、子供たちがラグビー選手に憧れてくれるような、そういう存在になれればと。野球選手っていくら年俸もらってるっていうニュースが流れて、いいクルマにも乗ってるイメージがあるじゃないですか。でも、ラグビー選手ってまだちょっと質素なイメージありませんか?」
今日、ダイヤモンドのネックレスを身に着けている稲垣さんを見る限り、質素なイメージは微塵もありません。
でもいくら稲垣さんがトレーニングを積んでも、客観的に見れば明らかにさらに上のレベル、肉体的にも技術的にも優れている相手と対峙することもあるじゃないですか。そういう時、ある種の不安とか怖さみたいなものは感じたりしないんですか?
「まったくないですね」
また即答だった。昔からずっとそう?
「高校の頃から、相手が怖いと思ったことは1度もないです。相手を打ちのめすために準備して、自分の中で備えて、蓄えて、グラウンドに立ってるわけですから。あとはもう、やるだけですよ」
それでもコテンパンにやられることもあるじゃないですか。
「結果的に試合で負けることもありますけど、そしたら自分の準備が足りなかったんだな、と。次の機会に相手を打ちのめすまで、また準備して、鍛えて、蓄えて、を繰り返すだけです。もう、負けたらクソみたいな気分ですけどね。でもそれは落ち込むとかじゃなくて、腹が立つって感じなんです。そこからすぐに、いったい何が足りなかったのか? と冷静に考え始めるんです。
つまり、いいことがあっても大喜びせず、結果が出なかった時でも落ち込まず、そうやってひたすら成長を繰り返してきたわけですよね。試合では当然プレッシャーもかかるし、予期せぬアクシデントも起こる中、それまで積み上げてきたものを100%出せるかどうか。それは間違いなくメンタリティの部分が大きく作用すると思います。僕は自分がやってきたことに絶対の自信を持っているから、今まで積み上げてきたものをすべて発揮できる自信もあるんですけど、そうじゃない人たちもいますよね」
メンタル云々から自分を切り離した
そこの差は何ですか?
「場数、特にくぐり抜けてきた修羅場ですかね。僕は本当に無駄なことをたくさん経験してきました。いわゆる根性練、これ絶対意味ないだろ? みたいな馬鹿げた練習です。それと同じくらい、高度な理論に基づいたトレーニングも積み重ねてきました。そのどちらも1周すると、全部役に立つんです。ただし、メンタルにしても肉体にしても、トレーニングの成果を実戦で試す場面を何度も経験しないと、本当の意味で自信の上積みはできないと思います」
つまるところ、誰よりも経験して、誰よりもトレーニングして、誰よりも吐きそうになった人が、誰よりも強靭なメンタリティに近づくと?
「それが最短ルートかはわからないですけど、まあ、近道ではあると思います。でも、個人的にはそういうメンタル云々とかいうところから自分を切り離した感はあります。さっきも言いましたけど、モチベーションなんて関係ない、来たるべきその時に向けて今やっている行動だけがすべてなんだ、ということに最近気づいてしまいましたから」
稲垣啓太には自分が理想とする男のイメージがあり、あくまでもそのイメージに自分を落とし込んでいく。どんな質問を投げかけても、彼はまるで試合中に組むスクラムと同じように揺らぐことがない。
不動のプロップの不動のメンタル論――でもこのままじゃちょっと面白くない。なので、僕はもう1度だけ食い下がる。
なんか虫でも、きゅうりでも、なんでもいいんで、怖いものとか苦手なものとか鬱陶しいものとかないんですか?
彼は口角を少し上げて、こう答える。
「強いて言えば、鬱陶しいのはパパラッチかな」
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。