オリンピックへの道BACK NUMBER
全日本選手権優勝で再始動したバドミントン・奥原希望が、それでも「スタートラインに立っていない」と語った理由
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byItaru Chiba
posted2022/01/16 11:02
東京五輪以来の実践となった日本選手権で貫禄勝ちともいうべき優勝を果たした奥原
大会では、ときに苦戦を強いられた。2回戦で対戦した大学生の栗原あかりには第1ゲームを失う。それでも「絶対に譲りたくないですから」と戦い方を切り替え、続くゲームを連取して勝利。先輩として、後輩たちの越えるべき壁でいたい自覚と、世界で活躍するトッププロとしての誇りがあった。
それは決勝で水井ひらりを破ったあとの言葉にもうかがえる。
「(水井と)久しぶりに対戦してうれしい気持ちと、世界トップでやっている私の立場からすると負けられない意気込みがありました」
どうしても、次のオリンピックへ……という期待も高まる。ただ、奥原は優勝という結果を得てなお、こう答えている。
「パリオリンピックのスタートラインに立てたかというと、そうではありません。今回のパフォーマンスでは世界に通用しません。今は全日本総合を視野に急ピッチで仕上げ、体のダメージがある状態です」
さらにこう話している。
「しばらくは来年(2022年)の世界選手権へ向けて体を整え、そこからスタートラインに立ちたいです」
しばらく大会には出場していなかったが、それは競技から離れての休養が理由ではなかった。大会への参加の意思を持ち、それに備えて強化合宿での練習に励んだがゆえの怪我が原因だったのだ。
パリへの3年を戦い抜く精神力
5年間、真剣に自身の成長を望み、世界選手権優勝などでたしかな足跡を残してきた末にたどり着いた結論が「答えが解けなかった」。それは奥原にとって大きなダメージとなっても不思議はない。それでもおそらくは、東京五輪が終わった直後から次へと目を向けていた。
その気力、精神力の強さに第一人者の矜持がみえる。あきらめない限り、気持ちが途切れない限り、挑戦し続けられる。
1月12日には、所属契約を結ぶ太陽ホールディングス株式会社との契約が2024年12月31日まで更新されることが発表となった。パリ五輪のある年まで延長されたことになる。
「引き続き太陽ホールディングス様にサポートをしていただけること、とても嬉しく思っています。現状維持では勝ち続けることが難しい世界の中で、今後も色々なことに挑戦しながら、プロとしてパフォーマンスや結果を追求していきたいと思います」
5年間の答え合わせはできなかった。でもこれからの3年間を使えば、もう一度答えを探せる。万全な状態で再びスタートラインに立つ奥原は、再始動でどんな成長を見せてくれるだろうか。
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