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格闘技PRESSBACK NUMBER
格闘技界の分裂、旬を過ぎたカード…那須川天心vs武尊を実現した榊原信行が噛みしめる“苦い経験”「許すところから始めるしかない」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2022/01/16 17:04
がっちりと握手を交わす那須川天心と武尊。会見ではそれぞれ格闘技界の団結と発展を願うコメントを残した
しかし、旧K-1が買収され国内の活動を休止すると、日本のキック界の勢力図は再び団体単位という元のサヤに戻ってしまった。今回は久々の大同団結の気配。ここで過去のいがみ合いを列挙しても仕方あるまい。ネガティブな話をして、誰が得をするというのか。それよりも初めてK-1とRISEが歩み寄り、未曾有のビッグバンを起こしそうなことの方が重要だ。
「アイツだけは許せねえ」を乗り越えて
那須川vs武尊には隠されたテーマがある。PEACE(和平)だ。昨年12月24日の対戦カード発表記者会見。武尊は「この試合は本当に5~6年前からずっと対戦が熱望されていたけど、いろいろな事情でなかなか決まらなかった」と切り出した。
「中立なリングで闘うことで、昔の格闘技みたいに団体に関係なく強い選手同士がやり合って、最高に盛り上がる夢のある舞台にしたい」
さらに、この大会で一番こだわっている部分も口にした。「K-1、RISE、RIZIN。全団体の選手が上がるための大会でないと意味はない」と。
その意見に同調するように、那須川も続いた。
「交わらない団体がやっとここで交わる。団体だけではなく、(テレビ局と配信局の)放映権の問題もある。みんな仲良くピースでいこうよ、と。いがみ合っているのは悲しいので、ここでしっかりと整えてほしい。僕はそれを置き土産としてキック界を去りたい」
プロモーターの榊原は「まずは許すところから始めるしかない」と心情を吐露した。
「この業界、『アイツだけは許せねえ』って話はよく聞くよね(笑)。でももう、お互い許そうよ。許し合って、詰め合えばいいだけの話。今までの関係がどうのこうのとか、僕からすれば小さい話ですよ」
日本の格闘技界は離合集散の歴史を繰り返してきた。まとまりそうでまとまらない。その傾向は立ち技格闘技に顕著で、いま日本のキック界には同じ階級のチャンピオンが何人もいる。榊原も十数年前には、似たような思いをイヤというほど経験した。
PRIDE、K-1、猪木軍の離合集散だ。2002年8月には三位一体となり、国立競技場で未曾有のビッグイベント『Dynamite!』を開催した。だが翌03年大晦日にはフジテレビ、TBS、日本テレビの三派に分かれ、それぞれ別個にイベントを開催。地上波で同時間帯に格闘技を放送するという視聴率大戦争を巻き起こす。これがK-1、PRIDEが牽引した格闘技ブームのピークといわれている。榊原は当時の記憶を反面教師として動こうとしている。