これまで選手サイドと主催者の交渉過程が表に出ることはなかった。もっといえば、ファイトマネーの額と同様に、交渉過程を公にすることはタブー視されていたといっていい。しかしながら選手が自分の意見を発信できる武器――SNSやYouTubeを得たことで、タブーがタブーではなくなっていく。とりわけシバターのように自ら発信することを生業とするYouTuberにとって、交渉の内容は格好のネタになった。決戦2日前の会見では、開き直りとも受け取れる発言をしている。

「YouTuberをブッキングしているんだから、それ（交渉過程を明かすこと）もコミコミ。YouTuberはRIZINよりデカい発信力を持っている。自分が得をして、盛り上がると思ったらどんどん発信しますよ」

　それだけではない。試合の9日前にはYouTubeに「試合を棄権します」と投稿し、周囲を慌てさせた。もちろん事前にRIZINサイドには伝えられていない話であり、もし実話ならば即座に対応しなければならない。榊原CEOは「やるという決定があったうえで、僕らはカードを発表している」と困惑した。

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「そこに突然辞退しますというのも……。通常は主催者に『こういう事情で出られない』という旨を伝えるのが筋だと思う。でも、その前に動画が上がってしまう。それがひとつのブラフなのか、アングル作りなのか、本意がわからない。ちゃんと向き合って話がしたい」

炎上系YouTuberのヒカルやてんちむを引き連れて入場するシバター（2020年）　©RIZIN FF

「できれば2ラウンド目に決めてください」

　問題の核心は、試合までのストーリー展開を主催者と一緒に紡ぐわけではなく、シバターひとりで独善的に進めたことにある。従来の格闘技界にはなかった、まったく新しいやり方だ。見方を変えれば、ややもすると上から目線になりがちな主催者にものを申す前例を作ったという意味で、シバターを評価する声もある。いずれにせよ、どこまでが本気で、どこまでがフェイクなのか。その線引きが主催者ですらわからないところが、今までのファイターが持ち合わせていなかったシバターの武器であり、恐ろしさでもある。

「だったらシバターを起用しなければいいじゃないか」という意見も聞こえてきそうだが、RIZINは大会を成功させるためには“何でもあり”の方向に思い切り舵を切るプロモーションだ。マス（一般大衆）を対象にした場合、炎上系YouTuberの発言力は捨てがたく、多少のマイナスイメージは覚悟の上だったと思われる。とはいえ、談合疑惑まで持ち上がると洒落にならない。ことの発端は、シバターと久保のLINEでのやりとりと推測されるスクリーンショットが世に出たことだった。

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