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「見たか、この野郎」因縁の井上直樹と朝倉海を圧倒し、プロポーズも大成功…“UFCに落ちた男”扇久保博正がすべてを手に入れた夜 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph by©RIZIN FF Susumu Nagao

posted2022/01/02 17:02

「見たか、この野郎」因縁の井上直樹と朝倉海を圧倒し、プロポーズも大成功…“UFCに落ちた男”扇久保博正がすべてを手に入れた夜<Number Web> photograph by ©RIZIN FF Susumu Nagao

『RIZIN JAPAN GP2021 バンタム級トーナメント』で優勝を果たし、プロポーズにも成功した扇久保博正。井上直樹、朝倉海という難敵を退けた先には、人生最良の瞬間が待っていた

 準決勝の井上戦、1ラウンドの流れは劣勢だった。それでも扇久保は「焦ることはなかった」と振り返る。

「バックをとられたときに井上選手の息がかなり上がっていたので、2ラウンド目からはイケると思いました」

 思惑通り、その後井上の動きは目立って悪くなっていく。扇久保は寝技に誘い、相手に残された最後のスタミナを削り始めた。3ラウンドになると、扇久保がテイクダウンを奪ってからの寝技の時間が増え始めた。

 総合格闘技特有の際の攻防――スクランブルでも扇久保は泥臭くガツガツと攻め込み、井上に主導権を渡すことはなかった。

「離れ際の打撃を狙っていました。そこはもう練習通りでした」

かつて自分を落としたUFCに「見たか、この野郎」

 続く朝倉との決勝戦。2020年に一度負けている相手ともなれば苦手意識を持っても不思議ではないが、扇久保は闘う意識を変えることで、そのプレッシャーをはねのけようとしていた。

「前回は打撃だけ(で勝負)という頭になっていた。今回は(総合に携わってから)16年間、自分がやってきた全てを出そうと思っていました。相手の打撃は突出して強いけど、僕は打撃もレスリングも寝技も全部できる。そこで勝負しようと思っていました」

 2ラウンドには朝倉のパンチをクリーンヒットさせられる場面もあったが、扇久保は耐えた。そして自分を信じた。

「とにかく最後まで気持ちを切らさずに闘おうと思っていました。そこが勝てた要因かなと思います」

 お気づきだっただろうか。ベスト4に残った他のメンバーがみな身長170cm台だったのとは対照的に、扇久保だけは身長が160cmしかなかったことを。今回のトーナメントは61kg契約だったのに対し、修斗では晩年56.7kgリミットのフライ級で闘っている。階級制スポーツにおいて体重差や身長差は大きなハンディとなる。

 それでも、今回は2試合とも扇久保はそうしたハンディを全く感じさせなかった。むしろ時間が経つにつれて、彼の体が大きく見えるようになったくらいだ。なぜそんなマジックが起きたかといえば、理に叶った動きができていたから、としかいいようがない。前足へのローキックを連打して下半身にダメージをじわじわと蓄積させる。そしてタックルのプレッシャーを強くさせることで、警戒する相手の姿勢をも低くさせていったのだ。泥臭さのなかには、勝利の方程式が隠されていた。

 会見後、筆者は「自分を落としたUFCに何か言いたいか」と問いかけた。

 扇久保はニヤッとしながら、「言いたい、本当に言いたい」と呟き、本音を漏らした。

「見たか、この野郎」

 30歳を過ぎても人は成長する。もう振り出しには戻らない。

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