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革命児・井上康生がイギリスで捨てた“チャンピオンの意識”…代表内定会見の涙には「なんて恥ずかしいことをしてしまったのかと」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTomosuke Imai
posted2021/12/30 11:05
井上康生の実像に迫る短期連載。第7回は本人インタビュー(取材協力 公益財団法人講道館)
そのとき、目線をスーッと下げられたんですよね。ただ、すごい不思議な感覚でもありました。あんな気持ちになったの、初めてかもしれません。「おれって、伸びしろあるな」と。すごくポジティブになれたんです。そこから変わることに抵抗がなくなりました。自分をどんどんアップデートさせていかなければと、いろんなことから学ぶことに敏感になっていったんです。
「何か変えないと、何も起きないと」
――この取材をしながら、なぜ、康生さんだけが伝統やしがらみにとらわれず、日本柔道を改革できたのかをずっと考えていたのですが、今の話を聞いていて、少しわかったような気がしました。
井上 何かを追求していく中で、変えていかなければならないことは必ずあります。コーチ、スタッフ、選手、所属の方々と話す中で、その思いは共通しているのだなと感じていました。幸運だったのは、みんなが危機意識を持っていたということだと思います。落ちるところまで落ちたので、周りの人間も変えることに比較的寛容でした。ただ、改革の過程で、一瞬でも結果が出ていなかったら、叩き落されていたと思います。そこは常にギリギリの戦いでした。
――とはいえ、2014年の世界選手権で100キロ級の代表の派遣を見送ったときは、鈴木桂治監督(当時コーチ)の話によれば、反発は決して小さくなかったそうですね。