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<現役最終戦に秘めた思い(24)>白井健三「最後は笑ってガッツポーズ」
posted2022/01/04 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
AFLO
東京オリンピック出場が絶望的となった時点で、気持ちを固めていた。数々の新技を生み出した“ひねり王子”は、人知れず最後の大会に臨んだ。
2021.6.6
全日本体操種目別選手権
成績
ゆか 2位(15.133点)
鉄棒 7位(13.366点)
◇
白井健三の名前が世界に知れ渡ったのは、まだ彼が17歳のときだった。2013年にベルギーのアントワープで開催された世界体操選手権、白井は世界の強豪でも組み入れることのなかった技の構成で大舞台に臨んだ。半年以上も前に指導者から伝えられていたものだった。
《すごく受動的に決まったものです。先生に構成を伝えられたときは本当に? と思ったんですけど、これをやれば勝負できると言ってくれたので自分も必死に練習しました。17歳で無名だったので、失敗することへの恐怖感はなかった。失うものがありませんでした》
チャレンジに満ちたその構成を白井はやり切った。ゆかでは後方伸身宙返り4回ひねり、前方伸身宙返り3回ひねり、跳馬では伸身ユルチェンコ3回ひねり、まだ誰も世界の舞台で成功させていなかったそれらの技には「シライ」(後に「シライ/グエン」に)「シライ2」「シライ/キム・ヒフン」と自身の名がつけられた。
青年は一夜にして、体操界の寵児となった。
《技に名前がついたことはあまり何とも思わなかったというか……、他の選手もその技ができないわけではないですから。ただ、自分の場合は新しい技をやってみたいという好奇心が常にあって、たとえ失敗しても、どうやってやるのかを考えるのが楽しかったんです》