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「ダメだ、このままでは引退前と同じことを繰り返す」10000m新谷仁美(33歳)を変えた“世界トップに負けた夜”

posted2021/08/06 20:00

 
「ダメだ、このままでは引退前と同じことを繰り返す」10000m新谷仁美(33歳)を変えた“世界トップに負けた夜”<Number Web> photograph by Takeshi Nishimoto

東京五輪8月7日に行われる陸上女子10000mに出場する新谷仁美

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph by

Takeshi Nishimoto

 8月7日に行われる陸上女子10000m。昨年12月に驚異的な日本新記録(30分20秒44)を樹立、内定した5000mを辞退して10000mに専念した新谷仁美が世界記録保持者のギディ(ケニア)や三冠を狙うハッサン(オランダ)ら強豪にどこまで肉薄できるか注目が集まる。
 その新谷は2014年に一度現役を退くも、東京オリンピック出場を目指して2018年に現役復帰。若手選手も力をつけるなか、約3年という「短期間」で日本代表の座を射止めている。これは陸上長距離界では異例のこと。なぜこの短期間でオリンピックの舞台に立つことができたのか。
 その理由について、ノーリツ陸上部前監督で国内外の中長距離をウォッチし続けてきた「マラソン博士」森岡芳彦と、現役復帰時から新谷のことを取材し続けてきたEKIDEN News西本武司が、復帰後の全レースのタイムを元に、その特異すぎる成長曲線を分析する。(全2回の1回目/後編へ)

西本 「マラソン博士」こと森岡さんは、マラソンから駅伝、トラックまで長距離選手のあらゆる記録をメモしていて、膨大な知識を持っています。しかも、手書き。この山のような茶色い手帳がそうですよね?

森岡 殴り書きをしているので、読みづらいですが、新谷の復帰後のレースも今回まとめてきました。復帰戦は2018年6月9日の日体大記録会ですが、各記録を見返していく前にまず言いたいのは、新谷は大会出場が圧倒的に少ないということ。2018年が5本、2019年がDNS(欠場)1本、ゲストランナー1本を含めても7本。2020年はDNS2本を含めて14本、2021年は大会中止1本、DNS2本、テレビ収録2本を含めて7本。普通、実業団の女子選手だと小さな記録会も含めて、年間20~30大会は出場して1年間出ずっぱりなのが当たり前。

西本 春から秋はトラック、冬は駅伝もあって、レースを走りながら調整していくイメージですよね。

森岡 そうです。ところが復帰後の新谷には毎年、謎の空白期間があるんです(笑)。

「1カ月前より驚くほど細くなっていた」

西本 僕は復帰前の2018年3月に、新谷さんを指導することになった横田真人コーチに呼ばれて練習中の走りを見ているんです。そのとき横田さんに「オリンピックを目指す」と言われて、「絶対嘘だ」と思ったのを覚えています。卜部蘭さんと並んで走っていたんですが、バリバリの中距離選手の卜部さんのほうが明らかにキレていましたし、マラソンじゃなく、トラックの10000mでオリンピックというのは信じがたかった。その2018年のレースを見てみましょう。

<2018年> 
 6月9日 日体大記録会 3000m 9分20秒74

 7月11日 ホクレン・ディスタンスチャレンジ 5000m 15分35秒19
 
10月14日 北陸実業団記録会 5000m 15分24秒01
 
11月11日 東日本女子駅伝 9区10km 31分08秒
 
12月13日 ザトペック10@オーストラリア 10000m 31分32秒50

森岡 復帰初戦の3000mは9分20秒74。資生堂(当時)の吉川侑美に最後はついていけず2着でした。ただ2013年の世界陸上から大会に出ていないわけでしょ? 約5年もブランクがあって、「いきなり9分20秒で走るのか!」と感心しました。

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