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甘くない現実を突きつけられたミャンマー難民GKがついに… 「1分強で2失点」の初陣で覚醒した“サッカー選手の本能”
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byKentaro Takasaki
posted2021/12/19 17:02
ついに日本デビューを飾ったピエリアンアウン。しかしそこが到達点でないことは、本人も周囲も知っているはずである
「デビューして、2点を取られたことが一番の気持ちの変化です」
100万語の励ましの言葉よりも、一つの試合だった。これまで自分を信じてくれた横浜の仲間の期待に応えられなかったという口惜しさと不甲斐なさ。その悔恨の情が、眠っていたサッカー選手の本能を覚醒させた。
孤独に戦ってきた男だからこそ、仲間の誠意に応えたい
思えば、ピエリアンは孤独だった。代表チームは決して国軍の手先ではないという意志を表示しようとした日本戦での3本指のポーズは、そもそも当初、選手全員で行おうというものであった。いざとなり、後難を恐れて決意が鈍る者が続出する中、完遂したのは、彼ひとりだった。
日本に残る決断を下したが、もうサッカーは出来ないとあきらめていた。そんな中で、出逢った町クラブの監督やチームメイトたちは言葉のできない自分にいつも誠実に向き合ってくれていた。
2つの失点はだから、心底堪えた。あのあと、YS横浜はパワープレーで2点取り返していた。自分が無失点で抑えていれば、3対5で展開は変わっていたかもしれない。仲間を敗戦で悲嘆させる、こんな思いは二度としたくない。次は自分が彼らを助けなくてはいけない。
決意を聞いた側に異論があるはずがない。
関内で別れる際、ピエリアンは日本に来て初めて自信に満ちた言葉を吐いた。
「自分の実力はこんなものではないということを証明してみせます」
こう言わせたのは、紛れもなく日本でできた仲間との絆だった。<#1、#2から続く>