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「体操をやめよう」第一人者・寺本明日香が明かす“出られなかった東京五輪”の葛藤…村上茉愛メダル獲得の裏に“2人の物語”
posted2021/12/10 06:01
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Shino Seki
東京五輪の体操種目別ゆかで銅メダルを獲得した村上茉愛が「感謝しています」と思いを込めて謝意を捧げる選手がいた。ゆかの決勝当日、その選手から電話があったという。
「茉愛がいい演技をしたら、私もうれしいから」
村上は「頑張ってくるね」と返した。試合後のインタビューで、村上はこのときのやりとりを振り返っている。
「会ったらメダルにいっぱい触って、見てもらいたいです。『お返し』という形で演技をしていたので。会いたいな」
村上が語った相手は、寺本明日香である。そのエピソードは、寺本の立ち位置を知る人の心に強く響くことになった。
東京五輪を“補欠”として迎える葛藤
寺本は、体操界では誰もが知る第一人者だ。
2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ五輪に出場。ロンドンではただ一人団体総合で全種目に出場し8位入賞に貢献した。リオでは主将として団体総合4位、個人総合でも1964年東京大会以来の入賞となる8位となった。2011年以来、常に代表の軸として牽引してきた。
リオの後も主軸として活躍していた寺本は、3度目のオリンピック、東京大会を目指していた。そのときアクシデントが襲った。2020年2月、左足アキレス腱断裂の重傷を負ったのである。懸命にリハビリを行い、復帰。周囲も驚くほど急ピッチで回復していったが、4枠ある日本代表の最終選考会のNHK杯で5位、あと一歩で代表を手にすることはできず、補欠という立場で同行することになった。
「ロンドンもリオも経験しているし、経験豊富な中で補欠という立場は私にしかできない仕事だと思ったので、監督から依頼が来たとき、『受けます』と答えました。合宿ではいろいろな選手に声をかけたり、聞き役の立場ではあったと思います」
とはいえ、何年もかけて目指した舞台を目前で手にすることができず、「じゃあ補欠で」とすっきりと気持ちがなるわけもない。
「しんどくて、『やめときゃよかったな』と思ったときもありました」