オリンピックへの道BACK NUMBER
「体操をやめよう」第一人者・寺本明日香が明かす“出られなかった東京五輪”の葛藤…村上茉愛メダル獲得の裏に“2人の物語”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2021/12/10 06:01
東京五輪では補欠ながらチームを支え続けた寺本明日香(26)
「体操をやめよう」
体育館に足を運ばなくなった寺本だったが、考えに考えた末、現役生活の続行を決めた。日本では20代前半でやめるのが大抵の中、異例とも言える。
寺本がそれでも“現役続行”を決めた理由
「みんながやめていく理由は分かります。たしかに体は動かなくなるし、しんどくなる。なによりも、トレーニングで体は強くなっているのに技ができなくなってくるんです。体操や新体操、フィギュアスケートもそうだと思います」
それでも続けると決めた理由がいくつかある。世界に目を向ければ、46歳で東京五輪に出場したオクサナ・チュソビチナは突出した存在としても、30歳を迎えようとしても現役である選手たちがいた。
「日本では今までなかっただけですし、できることを示していければ。4種目すべてをやる総合は難しいと思うので、例えば跳馬であったり、種目は絞っていくと思います。男子を見ても、亀さん(亀山耕平。東京五輪に32歳で出場し種目別あん馬で5位)も航平さん(内村航平。東京五輪に32歳で種目別鉄棒に出場)もそうですし」
もう1つの仕事を考えたことも競技続行の後押しとなった。寺本は体操の発展に貢献していくことを2つ目の目標に据えている。すでに指導を行なったり、YouTubeにチャンネルを開設して情報を発信したりしている。
「新しい活動をやりながら現役もできると思いましたし、むしろ現役という立場でそうした活動をするからこそ価値があると思いました」
現役だからこそ発信力が強い点も考えたのだという。
いずれ競技から退いたあとの将来の目標もある。
「(日本体操)協会の仕事なり、日本代表の監督が夢です。それを思うと、今回、正選手ではなく補欠という立場であったのはよかったと思います。『監督になったとき、この子の気持ちも、この子の気持ちも分かる先生になれるな』、この経験をいかせるなと思いました」
選手として、今は2024年のパリ五輪のことは考えていないと言う。ただ――。
「日本がオリンピックの出場権を獲れないんじゃないか、みたいな状況になったら、考えます」
これまで危機にあったとき、チームを救う活躍を見せてきた。日本代表が再びピンチに陥ったときは、選手として自分が助けになれれば――寺本明日香らしい、思いだった。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。