開口一番のトーンはそこまで明るいものではなかった

「自分の個人の結果だけ見るととてもありがたいシーズンでした。ただ、それがチームの成績につながらなかったことには申し訳なさもあります」

　釜山アイパークは1部昇格を目指したが、リーグ5位に終わり、昇格プレーオフに進めなかった。その理由はチームの失点が「56」とKリーグ2部の中で最多だったことにある。

「守備に不安を抱えたまま、リーグ期間中にそれを立て直すことができなかったのは反省材料です」と唇を噛む。

　ただ、それでも安が今季、釜山に来なければ、さらに下位に甘んじていたかもしれない。そう考えるとFWとしての貢献度はいつになく高かったと言える。

©Busan IPark

表彰式で流した涙の理由

　それにしても表彰式で涙を流していた理由が気になった。

「それは去年の冬の移籍市場で1部の江原（カンウォン）FC入りが決まっていたのに、膝の古傷がメディカルチェックで引っかかって、移籍が破談になり、当時のつらい時期を思い出したからです」

　去年の冬に辛い状況にあったというのはこのことだ。

　安は2020年に水原FCで21ゴールを決め、チームを1部昇格に導いた活躍が認められ、江原FC（K1）への移籍を決めていた。元韓国代表DFのイ・ヨンピョがクラブの代表に就任するなど、何かと話題性も多かった。

　韓国メディアもこの事実を大々的に報じるなかで、“騒動”は起こった。

　最初のメディカルテストでは「プレーに問題はない」とお墨付きをもらっていたのだが、キャンプ地に行く直前に再検査の連絡が入ったのだ。ただ、そこでも「支障はない」と言われたが、チームはこれを深刻な事態と捉えた。

「移籍金が発生することや今季のリスクをチームが天秤にかけた結果、僕を入れるのは難しいという判断だったのだと思います」（安）

　朝鮮半島にルーツを持つ安だが、韓国プロサッカー連盟規定では海外から移籍してきた選手となるため（試合では国内選手扱い）、入団当時のローカルルールによって契約満了後も移籍金が発生することが判明。そのため、各クラブは安の獲得をためらうようになった。シーズン途中にケガで離脱でもされたら、移籍金はムダになると想像したのだろう。

　江原FCのチームマフラーをかけ、加入後の公式インタビューの撮影も終えていたというのだから、すべて水の泡になった時の心境を考えると気の毒でしかない。しかも、水原FCで同僚だったFW石田雅俊（元京都他）が、同時期に江原FCへの移籍（今季途中からレンタルで大田ハナシチズンに加入）を決めたことも複雑な心境だったと思う。

　当時の出来事を安はこう振り返る。

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