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《引退》首脳陣批判のサファテに工藤監督は頭を下げた⋯日本在籍11年、福岡で愛された“キング・オブ・クローザー”の「漢気列伝」とは
posted2021/12/01 11:06
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Sankei Shimbun
ホークスが2017年の日本一を決めた夜。
デニス・サファテが取材に応じてくれたのは、とっくに日付が変わった午前2時頃だったと思う。勝利の美酒をたっぷり浴びたせいだろう。笑顔で緩んだ頬がほんの少し赤く染まっていた。彼は元々饒舌なナイスガイだ。だけど、さすがにあの時はどこか疲労感を隠しきれない表情に映った。
日本シリーズ史に残る「サファテの36球」
この年のサファテの活躍ぶりは本当に凄かった。レギュラーシーズンでは前人未到の54セーブ。加えて同年4月にはマーク・クルーンが保持していた外国人投手の通算セーブを抜き去って歴代1位に立ち、7月には通算200セーブの金字塔も打ち立てた。
そして日本シリーズである。対戦相手はベイスターズ。第2戦、第3戦でそれぞれ1回無失点に抑えて2セーブを挙げ、かくしてホークスが3勝2敗で迎えた第6戦だ。サファテの渾身の投球にチームが奮い立った。
江夏の21球ならぬ日本シリーズ史に語り継ぎたい「サファテの36球」。あれは、今思い出しても鳥肌が立つ“激投”だった。
1点ビハインドの9回表。逆転勝利を信じて、守護神はマウンドに送られた。あっさり三者凡退に仕留めて流れをつくる。すると9回裏、内川聖一が起死回生の同点ソロを放って3対3の同点に追いついた。
延長戦。10回表もマウンドにはサファテだ。無死二塁のピンチを背負ったが、ここからが真骨頂だ。ホセ・ロペスをたった3球で、筒香嘉智への勝負球は155キロ直球で連続三振。そして2死一、二塁からは一ゴロに打ち取って、この局面を乗り切った。3アウト目を確信したサファテは雄叫びを上げ、腕をぐるぐる回す派手なガッツポーズで一塁側のダグアウトへと駆けていった。この時に危うく打者走者とぶつかって走塁妨害となりかけたのは、今となってはご愛嬌だ。
延長11回表も続投。まさか、異例の3イニング目のリリーフマウンドとなったが、球威が衰えない。走者1人を許したものの無失点。チェンジとなり今度はゆっくりとダグアウトに戻ったが、その途中で超満員の内野スタンドに向かって何度も両手を振り上げ「後押し」を要求した。