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《引退》首脳陣批判のサファテに工藤監督は頭を下げた⋯日本在籍11年、福岡で愛された“キング・オブ・クローザー”の「漢気列伝」とは
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/01 11:06
MLBでプレー後、広島、西武を経て2014年からソフトバンクにやってきたサファテ。2017年日本シリーズで見せた投球は、鳥肌が立つ“激投”だった
「頑張ってくれたデニスのために1点を取ろう」
一気に沸き立つホークスファン。11回裏の攻撃が始まる前、ホークスナインもその熱に呼応するように円陣を組んだ。通常は打撃コーチが指示を送るために輪を作るのだが、この時に声を上げたのはキャプテンの内川だった。
「ここまで頑張ってくれたデニスのために1点を取ろう」
その輪の中には打席に立たない投手陣も加わっていた。ホークスの選手たちにとって、サファテは助っ人外国人ではなく、チームリーダーとして認識されていたのだ。この時が来日7年目。日本語のリスニングレベルを問うと「かなりダイジョーブ」と親指を立てて答えてくれていた。日本語で話すのも「ソーソー(まあまあ)」。日本語と英語を上手に組み合わせて不自由なく周りと交流をしていた。
「僕はいつも“ジャングリッシュ”(ジャパニーズとイングリッシュ)でお喋りをするんだ」
冗談を飛ばしてチームを和ませたと思えば、落ち込んでいる同僚を見つけるとロッカーでそっと隣に寄り添って話をした。特に同じブルペン陣には常に目配り気配りをしていた。なかでも、まだ若手だった森唯斗のことは特に可愛がっていた。「ブラザー」と呼び合い、球場外でも行動を共にした。それは夜の街を飲み歩くとかではない。遠征先のナイターの場合、宿舎出発時間はおおよそ午後2時頃と時間がたっぷりある。その午前中、サファテはジムでトレーニングをすることを日課にしており、そこに森をいつも同行させていた。
また、サファテがチームメイトのために漢気を見せた出来事と言えば、この17年のレギュラーシーズン中の一幕も忘れられない。
サファテの存在が“常勝軍団”のレガシーを築いた
8月2日、京セラドームでの試合前、球場の監督室をサファテは訪ねた。前日にサヨナラ本塁打を被弾した右腕は、試合後の取材で先発陣の早期降板が続いていることに触れ、珍しく報道陣の前で感情を爆発させていた。端的に言えば首脳陣批判である。一夜明けて、平静を取り戻したサファテは工藤公康監督に対して面と向かって「申し訳ない」と謝罪しに行ったのだ。